陽村アマネは塩分も摂りたい(じゃがりこ編)

          ☆    †    ♪    ∞


[二〇××年 某月某日]

[午後一時一八分]

              [公立春日峰かすがみね高校 一年一組教室]


「はいアマネちゃん、あーん♡」

「あ~~~……」


 文字通り「あー」と口を開けて、ハトネから差し出された一本のじゃがりこを口にするアマネ。

 そのまま、じゃがじゃがと小きざみに小気味よくじゃがりこを食べ進める。


「――うむ。美味」

「あーもーアマネちゃんかわいい! ハムスターみたい!」


 がりこがりこと満足気味にじゃがりこを咀嚼そしゃくするアマネに、ハトネも満足気味だった。


 ――じゃがりこ。


 カルビーの看板商品の一つであるスナック菓子。

 商品名から解る通りジャガイモを原料としたスティックタイプのスナックで、ほどよく硬いカリカリとした食感と定期的に発売される期間限定のバリエーションによって人気を博している。

 ちなみにアマネが食べているのはたらこバター味。元々は期間限定だったが、客層からの凄まじい反響を受けて定番へと格上げされたという経緯を持つ。


「失礼な。ハムスターより私の方がかわいいだろうが」

「ハムスター扱いされて意地を張っちゃうトコロもかわいい! まだ食べる?」

「うむ。食べるぞ」


 そうして、またハトネに差し出されたじゃがりこをじゃがじゃがと食べるアマネ。


 はたから見れば、それは完全に餌付けの光景だった。


「……なんでオレはあんなヤツに負けたんだろう」


 若干やさぐれた視線をアマネに向けながら、ポツリと漏らすランセ。


「アマネちゃん、普段はオトナなのにおやつ食べてる時だけは小学生かそれ以下だからね。そこがまたかわいいんだけど」


 マユナもじゃがりこ(チーズ味)をがりこがりこと噛みながらランセに応じる。


「……プライドと羞恥心をまとめてゴミの日に出してるようにしか見えないけどな」


 言いながら頬杖をつくランセ。容赦ない言い草だった。


「えー? そこまで言う? ユアナだってお姉ちゃんがじゃがりこあげるとあんな感じで食べるよ? アマネちゃんよりはちょっと恥ずかしそうにするけど」

「えっ」


 マユナから唐突に明かされた衝撃の事実に、ランセは思わず小さく声を上げた。


 ランセの脳裏が一瞬で想像を組み立てる。


 自分が差し出したじゃがりこを、すこし恥ずかしそうにじゃがじゃがとひかえめに食べるユアナ。


 ――無言で、ランセは席を立った。


「ランセちゃん?」

「……………………ちょっと、一人にさせてくれ」


 無表情ではあったが、どこか思い詰めたような――慚愧ざんきの念に駆られたかのような重い足取りで教室を出ていくランセ。


「……ランセちゃんはマジメだねぇ」


 その心情を即座に察してか、ランセを追わずにじゃがりこを食べながらマユナは独りごちた。


 一方アマネはランセのことなど露知らず、ハトネに餌付けされるがままだった。

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