ハグテロチャレンジ
☆ † ♪ ∞
[二〇××年 某月某日]
[午後一時九分]
[公立
――ハグテロチャレンジ。
ルールは簡単。
クラスメイトにいきなり抱きついて、許されればよし。怒られたらそこで負け――というシンプルな度胸試し。
「……じゃあ先攻ウチな」
「……いいだろう」
先攻を取るジュリに、うなずくマユナ。
なぜか二人とも妙に緊張感のある面持ちで、雰囲気だけはテロリスト風だった。
最初にジュリが標的として選んだのは、
「――スキありじゃおらー!」
「ひゃうっ!?」
『一組のお母さん』こと、
背後からいきなりジュリに抱きつかれ、思わず子猫のようなかわいらしい悲鳴を上げる。
「あのっ、ちょっと、
「それ以上なにも言うなヨリリ! ちょーっとだけハグさせろい!」
「えぇ……!? で、でもいきなりなんて……!」
「やべー! ヨリリいいニオイするー!」
「は、恥ずかしいからそんなこと言わないで……!」
顔を赤くしながらもそれほど抵抗しないヨリ。おおよそ一分ほどヨリを抱きしめたジュリは、マユナの元へと戻った。
「――ゆるされた」
「そりゃまーマミーなら許してくれるでしょ」
どこか満足げなジュリに、マユナは当然の結果だと納得する。
「次マユコだろ。誰狙いよ?」
「……まぁ見てなさいって」
教室内を見渡すマユナ。
選んだ標的は、
「――抱きつき御免っ!!」
「んん……?」
正面からマユナが抱きついたのはバレー部で長身の
ヨリと違い、多少驚きはしたものの反応は薄かった。
「……あんたまーたヘンな遊びしてるの?」
「ハグテロチャレンジです」
「はいはい。よくわかんないけどほどほどにしてよね」
「あざーす」
「……っていうかあんた妙に体温高くない? 結構暑苦しいんだけど」
仕方なさそうに笑いながらマユナの頭をなでるハトネ。小さな子供のいたずらを許す母親のようだった。
「――ゆるされた」
「まーハトポンもアンパイだわなー」
ハトネから離れてやはりどこか満足げなマユナに、うんうんとうなずくジュリ。
そうしてさらに二回ほど互いにテロ行為を繰り返すものの、それぞれとりあえずは許されるマユナとジュリ。
ちなみに、アマネとコマリはテロ成功が約束されているので標的にするのは禁止していた。
「……うちのクラスは優しい子が多いねぇ」
「それなー」
二人とも都合三度のテロ行為を成功させ、一年一組がいかに平和であるかを再確認する。
しかし――世界がそうであるように、完全平和などは存在しない。
「……一人だけ無敵要塞がいるけどねー」
「それなー……」
マユナとジュリが恐る恐る視線を向けた先には――
今まで標的にしてきた少女達とは明らかに異なる次元の住人。
鋭利な冷眼は少女どころか肉食獣を思わせる。
「……ランセちゃんにハグできたら優勝間違いなしだけどねぇ」
「いやありゃムリだろ。この時点ですっげーこっち見てるし、もう
一切隠れていない地雷。解除不能の時限爆弾。不発の核弾頭――マユナとジュリには今のランセがそう見えた。
正に近づいただけでハグテロチャレンジ失敗どころか命が危ぶまれるほどの死地。マユナもジュリもランセには仕掛けられないと諦めるのに時間はかからなかった。
が、
ぎゅむ、と背後からランセにあっさりと抱きついた一人の影。
「「「――――っ!?」」」
マユナとジュリは無論のこと、最も驚愕したのはランセだった。
「スキありー」
――
そんなジュンが、無敵要塞とまで言われたランセに対し、散歩するかのような気軽さで平然とテロ行為を成功させた。
「おおおおおおおおお!? ヒダリーすっげーーーーー!!」
「まーーーーーーー!? しんじらんねーありえねーーー!!」
恐るべき快挙に興奮と歓喜の叫びを上げるマユナとジュン。
「和左野か……!? この、離れ…………っ!?」
抱きついてきたジュンを振り払おうとするランセだったが、すぐに自身の異変に気づく。
首から下の感覚が、完全に無い。
「~~~~~!? チビスケ! お前なにかしただろ!?」
ランセに呼ばれたアマネは、我関せずとばかりにコマリとあやとりに興じていた。
ものすごく露骨な無視だった。
「ランランあったかいー」
「………………………………」
ニコニコしながら甘えるジュンに対し、ガクリとうなだれるランセ。その
この瞬間、ジュンはハグテロチャレンジ殿堂入りテロリストとなり、しばらくの間マユナとジュリから「聖戦士」だの「ハグテロ神」だのと崇められることとなった。
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