ママ力
☆ † ♪ ∞
――
春日峰高校一年一組生徒。クラス委員(書記)
おさげにした髪と、すこし目尻が下がった丸い瞳。
目立つ容姿ではない――が、顔立ちは整っているし、子犬のような愛嬌は他人に対しての壁を感じさせない。
「
「あぁ……悪い。まだ書いてなかった」
「大丈夫。帰りまでに提出してくれればいいから、お昼休みとかに書き上げて私まで持ってきてくれる?」
「うん。解った」
一部のクラスメイトの間では「ニホンオオカミ」やら「たたいて・かぶって・ジャンケンポン
「ヨリリーーー! 一限目の世界史のノート見せてくれよー! 最初マユコにノート見せてもらったけどラクガキだらけだしついでにラクガキもおもしれーしさっぱりアテになんねー!」
「
「あざまるー! ヨリリさまさまっすわー!」
やや素行が悪いギャルに助けを求められればそれも平然と助けるし、
「……あれ?
「………………」
「あの……よかったら付け直す? 私、裁縫道具持ってるから……」
「うむ。コマリ、せっかくだから直してもらえ」
クラスメイトの制服が乱れていればそれも直す。
誰とでも話せる温和な人柄と、細やかな気配り。
ヨリがクラスメイトの間で「一組のお母さん」とまで呼ばれるようになるまで、そう時間はかからなかった。
☆ † ♪ ∞
[二〇××年 某月某日]
[午後一時七分]
[公立
「マミーってさ、女子力というかママ
「え……? ママ力……?」
昼休み、そろって昼食を摂るマユナとランセとヨリ。
マユナの唐突な言葉に、ヨリは思わずオウム返しした。
「だってほら、そのお弁当だって自分で作ったんでしょ?」
「う、うん……」
「お裁縫だってできるでしょ。教室のお掃除だってちゃんとやるし、やってるの見たことないけどお洗濯だってできるでしょ」
「洗濯なら……うん、家でやってるけど……」
「……ウチのママよりママしとるやんけ……」
「しっかりしてるよな」
「なんて奴だ」と言わんばかりに目を丸くするマユナと、感心したようにうなずくランセ。
しかし、当のヨリは家事をこなせるのが特別な事だとは露ほども思っていなかった。
「マミーはさ……ズバリ長女でしょ! そんで弟妹がたくさんいて、ママのように世話してると見た!」
「長女っぽいよな」
勝手な予想でテンションを上げるマユナに、ランセはおにぎりを食べながら珍しくのんびりと同意する。
――間宮ヨリ。
家族構成は父・母、そしてヨリをふくめ兄妹は五人。
確かにマユナの予想通りヨリは長女である――が、
正確には兄が四人で、ヨリは末っ子である。
「いーなー。お姉ちゃんもマミーにお世話されたいー」
「……お前散々ユアナに甘えてるクセにまだ甘え足りないのか。
「………………」
そして兄達の世話もよくしているものの、それ以上に両親や四人の兄から結構甘やかされて育てられてきた――という事実を、この場でなんとなく言い出しづらくなってしまったヨリであった。
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