ダンス・ダンス
☆ † ♪ ∞
[二〇××年 某月某日]
[午後五時六分]
[乙海家 マユナ自室]
――きつねダンス。
プロ野球チーム・北海道日本ハムファイターズのイニング間イベントで披露されるダンスであり、使われている楽曲『The FOX』がユニークで不思議な中毒性を持つことに加え、そもそもダンスの振付が容易で覚えやすく、老若男女問わず踊れる普遍性を持つ。
インターネット/SNSを通じてブームに火が付き、今やプロ野球ファン以外にも波及しているダンスであるが――それを、アマネとユアナが踊っていた。
二人とも乙海家母・サリナから提供されたきつね耳/しっぽもしっかりと身に着けた上で。
アマネの踊りは全てにおいて完成度が高かった。
振付の確度は元より、要所で独自のアレンジも組み込み、表情も誘うような大人びた微笑で少女らしからぬ
ユアナは人前で踊るのに恥じらいがあるのか、動きも表情もすこしぎこちない。
ただ振付自体は正確であり、なんだかんだ楽しそうに踊っていた。
アマネとユアナのパフォーマンスを真剣に見つめるのはマユナとランセとサリナの三人。
その場にはコマリもいたが、踊ってもいないのになぜかきつね耳としっぽは身に着けさせられていた。
曲が終わり、フィニッシュを決める二人。
そして――アマネが口を開く。
「――判定は!?」
「「ユアナ」」「ユーナ」
ほぼ同時に声を揃える三人。
満場一致でユアナに全票が入り、アマネはその場に崩れ落ちた。
「何故だっ……! 何故勝てないっ……!」
「いやまー……アマネちゃんはすごい器用だし完成度も高いけどさ、ユアナがさ……恥ずかしいのを我慢してがんばって踊ってるのがポイント高すぎてさ……」
アマネを抱き寄せながら、なぐさめるように言うマユナ。
「恥じらいよね。アンタは自信に満ちあふれてるからわからないでしょうけど」
「……なんだそれは」
「そーゆートコよ」
パイポを吸うサリナに、首をかしげるアマネ。
アマネの辞書に恥じらいという単語は存在しなかった。
「でもホラ、どっちがよりかわいいかなんて無理に決めなくてもいいんじゃない?」
「ユーナとアマネちゃんじゃかわいさの方向性がちょうど正反対だしね。判定するのが三人しかいないからこんな結果になっただけで、これが五〇人とか一〇〇人だったら結果はまた違ってくるかもだし……すくなくとも大差はつかないと思うけど」
マユナとサリナの言葉を受けても、アマネはやや不機嫌そうに口をとがらせたまま。
己のかわいさに絶対の自信を持つアマネにとって、ユアナはまさに天を二分するレベルの強敵であった。
「……これで勝ったと思うなよ!」
テンプレートのような捨て台詞をユアナに吐くアマネ。
ユアナ自身は自分よりアマネの方がかわいいと思っているので、どうしてこうなったのか困惑しきりだった。
「……仮に相手がユアナじゃなくても、オレがお前をかわいいと認めることは今後ありえないけどな」
ユアナのきつね耳をもふもふしながら、アマネに痛恨の一撃を放つランセ。
ランセにとって、アマネはどこまでも気に入らない存在だった。
「おのれ! お前もきつね沼に沈めてやる!」
「はいはいはいそれはそれで気になるけどステイステイステイ」
うがー! と、よくわからないことを口走りながら暴れるアマネを、優しく抱きしめて抑えこむマユナ。
一方、ユアナはマユナにもきつねダンスを踊ってもらおうと思いつき、後で頼んでみようと考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます