その胸に聞け

          ☆    †    ♪    ∞


[二〇××年 某月某日]

                     [午前八時一八分]

              [公立春日峰高校 一年一組教室]


「「はよざ~す」」


 一組の生徒である右輪みぎわジュリと和左野わさのジュンがそろって教室に入る。


 ボリュームのあるツインテールにシュシュ。ブレスレットやピアスなどアクセサリーも身につけ、制服もほどほどに着崩しているのがジュリ。

 ジュンは小さなポニーテールに、両手の指には花弁とラメで装飾されたネイルチップ。ブレザーではなくジップパーカーを羽織っている。

 二人ともしっかりメイクしており、その全体的に明るめで派手な風体は良くも悪くも「遊んでそう」という印象を与える。


「おー! ミギーとヒダリー! おいすー!」

「おいすー」

「よっすー」


 二人に気づいたマユナが、それぞれ小さくハイタッチを交わす。


「よーよーコママル。おいっすー」


 マユナとハイタッチして、そのまま席についているコマリに歩み寄り、ひらひらと手を振るジュリ。


「………………」


 ジュリに顔を向けるものの、コマリにそれ以上のリアクションはない。

 冷淡――そう取れる対応であったが、


 それでもビクともしないのがジュリであった。


「――おらー! 朝のコマパイ一番しぼりゲットだぜー!」


 いきなり背後からコマリの胸を遠慮なく揉み上げるジュリ。

 もみゅ、と制服の上からでも解るほどコマリの胸の形が変わる。


「あーやっぱコマパイすっげー! やわらけー! 持ち上がるー!」

「キャパいー」


 どこかわざとらしい大声ではしゃぐジュリに、それに乗るようにジュンも同調する。


 ――ふと、ジュリとジュンは同時にピタリとはしゃぐのを止めて、教室内を見渡した。


 男子の数人がジュリとジュン――もとい、コマリから視線を外す。

 スマートフォンの画面を見たり、漫画雑誌を見たり――「私は見てません」と訴えるような暗黙の行動。


「――見てんじゃねーよ男子ぃー!」

「すけべー」


 しかし、ジュリとジュンはケラケラと笑いながら視線を外した男子達を断罪した。

 年頃の青少年にとって強めの刺激を用いた、まぁまぁ悪辣な所業。


「お前らのせいだろうが!」だの「去れ! 悪魔め!」だの一部の男子から抗議されるも、ジュリとジュンはどこ吹く風。

 注目の的にされてしまったコマリもまったく意に介していないのか、ジュリに胸を揉まれるがままだった。


「……右輪、そこまでにしろ。いくら同性だからってセクハラだぞ」


 コマリを見かねてか、ジュリに声をかけるランセ。


「え~? いーじゃんかよちょっとくらいよー。それとも保護者がセキニンとってランランがおっぱい揉ませてくれんのかよー」

「セキニンとれー」


 あくまでもスキンシップ程度としか考えておらず、ほんの冗談を口走るジュリとジュン。


 が、


「…………――――」


 ランセの左目が零度を下回るかのごとく冷める。

「これ以上は言わなくても解るな?」と、目だけで雄弁に語る。

 一般人であるジュリとジュンに対して、喉元に刃を突きつけるようなシンプルかつ冷徹な威嚇だった。


 無論、ジュリとジュンにそれを受け止められるだけの胆力などなく。


 ライオンから逃げるシマウマのごとく、二人はすぐさまランセから距離を取ってマユナを盾にした。


「ここここえーよ……ありゃ命のやり取りができる目だよ……」

「ランセちゃんにセクハラ発言はやめた方がいいってことさ」

「バリヤバ……」


 カタカタと小さく震えるジュリを、あやすように髪をなでるマユナ。


 一方、ランセはコマリを守ったことが女子であるにもかかわらず「男らしい」と、一部の男子からすこしだけ株を上げられることとなった。

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