栄冠は君に輝く
☆ † ♪ ∞
[二〇××年 某月某日]
[午後二時八分]
[公立
その日の体育の授業は、女子はソフトボールの紅白戦を行っていた。
Aチームはマユナの好投好打による無双プレイを見せつけ、アマネ率いるBチームは六点差も付けられていた。
勝負は決まった――五回のあたりで戦意を失うBチームの面々。
それまで攻撃にも防御にも参加せず、なぜか一人だけジャンパーを羽織り
――代打・コマリ。
それまでアマネと同じく試合に参加せずチームの控えに回されていたコマリが、いよいよ実戦投入された。
Aチームの投手であるマユナに緊張が走る。
それまでの相手とは明らかに違う、底すら見えない器――マユナ以外の守備に回っていたAチームの面々もコマリの異質さを感じ取った。
A・B両チームにとって注目の一戦。
意を決したマユナが、真剣な表情とともに渾身の一投を放つ。
――それはなんだか、ゆるいボールだった。
なんとかバッターボックスに届くくらいの、球威的には軽めのキャッチボールを連想させる、実にゆるいボール。
ゆるやかな放物線を描き、そのボールはコマリが構えたままのバットにコツンと当たって、そのまま落ちた。
「――っし当たった! コマリン! 走って!」
「うむ! 行け! コマリ!」
目を見開きながらマユナとアマネが叫ぶ。
二人に応じて走り出すコマリ。
すたすたと、ジョギングくらいの速さで。
バッターボックス付近に落ちたボールは、誰も捕ろうとしない。
Bチームどころか、Aチームまでもがそれを見守っていた。
そして、てし、とコマリの足が一塁を踏んだ。
――――――瞬間、グラウンドが沸いた。
「うおあーーーーー!! やったーーーーーコマリーーーーーン!!」
真っ先にコマリに駆け寄り、抱きつくマユナ。
Bチームは元より、Aチームも守備を放棄してコマリへと殺到し、喜びを分かち合う。
それどころか、グラウンドのもう半面でサッカーをしていた男子達もコマリの元へ集まり大はしゃぎする。
次第にどこで用意したのかビールではなくメントスコーラをぶちまけ合い、両親に電話でこのことを報告したり、ゲームアプリのガチャでSSRを引き当てる生徒も出始めた。
それはシーズン優勝を果たしたプロ野球チームの祝勝会を思わせる、異様なまでの狂喜乱舞だった。
「うむ……勝敗を超えて敵味方が一つとなり、喜び讃え合う……いいものだな。競技とは」
それを遠目に、ほとんど何もしていないのに何かをやりきったような晴れ晴れとした顔でつぶやくアマネ。
「………………何が起こってるんだ………………?」
「……さあ?」
その狂気の輪に入っていない数少ない生徒――どこか戦慄を覚えていたランセの言葉に、スマートフォンをいじりながら雑に応じる
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