目は口ほどに物を言う
☆ † ♪ ∞
[二〇××年 某月某日]
[午後五時一一分]
[津雲市 ビオス緋川五丁目店]
「びぃいぇぁあぁぁぁああぁぁぁぁあぁあぁぁっ!!」
「買わないって言ってるでしょ……!?」
夕方、スーパーマーケット『ビオス』で食材の買い物を済ませた乙海姉妹と、それに付き合っていたランセは店先で盛大に泣き叫ぶ幼女と若い母親を見かけた。
幼女はなにか欲しい物があったのだろうが、母親がそれを断固として拒否したからそうなったのだろう……と容易に解る構図だった。
「……気になったんだけど、ユアナってあんな感じで駄々こねたりしたことあるのか?」
親子から視線を切りながら、なんとなくマユナに訊くランセ。
「いやー……いいかいランセちゃん。改めてよく見てほしい。ウチのユアナがそんな子に見えますか?」
きゅっ、とユアナの両肩を抱きながら「なに言ってんだオメー」と若干たしなめるような呆れ顔をするマユナ。
ユアナは露骨に持ち上げれるのが恥ずかしいのか、すこし頬を赤くしていた。
「……そうだな。愚問だった」
マユナにイラッとしながらもユアナの手前、嘆息してイラつきを抑えるランセ。大人の対応だった。
「でもまー、お姉ちゃんとしてはユアナだってちょっとくらい駄々こねたりしてもいいと思うんだよね。ユアナってビックリするくらいガマン強くてさ……赤ちゃんの頃から滅多に泣かないし」
言いながら、自分の自転車のカゴに買い物袋を一つ入れるマユナ。
その言葉が意外で、ランセはすこしだけ目を丸くした。
「そんなにか? 手はかからなそうだけど」
「どうやって手をかけていいか解らなかったのがタイヘンだったのさ。お腹が空いてるのか、おむつを替えればいいのか、暑いのか寒いのか、痛いトコロがあるのか怖いのか寂しいのか……一切泣かないからそのへんノーヒントだったよね。もうちょっと泣いてくれてもよかったんやで?」
今さら無茶な要求をするマユナに、ユアナは困惑した。
ランセは――マユナの言葉にすこしだけ感心した。
本当にユアナの面倒を見ていなければ出てこない言葉だと思ったからである。
「しかしお姉ちゃん、これじゃユアナの世話ができねぇと思いまして、独自の研究と
「へー」
ガッ、と拳を握りながら豪語するマユナだが、急にうさんくさくなったのかランセの反応は冷めきっていた。
「あからさまに信じてないねランセちゃん! ではお見せしよう! はいユアナこっち見てー。今なに考えてるかお姉ちゃん当てるからー」
互いの目線を合わせるようにすこしだけ屈んで、ユアナの両目をじっ、と見つめるマユナ。
「……ほほう、今日のお夕飯は――あー! グラタンかー!」
なにやら一人で納得するマユナに、ユアナはそれが当たっていたのかすごいとばかりにコクコクとうなずいている。
ユアナには悪いと思いながらも――ランセにとっては茶番だった。
言ったもの勝ちというか、ユアナがその優しさからマユナに合わせているようにしか見えない。
「まだ信じてないねランセちゃん! じゃあもう一回。はいユアナこっち見てー」
まだランセの反応が微妙であることを察して、マユナは再びユアナの両目を見つめた。
「「………………」」
時間にしてほんの数秒。無言で見つめ合うマユナとユアナ。
――ふと、マユナの顔が次第に紅潮していった。
「――い、いやあの、おっ、お姉ちゃんはそんなんじゃないのだ! なに言っとるんだチミは!」
ユアナから顔を背けて、パタパタと手を振って恥ずかしがるマユナ。
「……? ユアナ、なにを考えてた?」
マユナの異変が気になり、ランセはユアナに尋ねた。
ユアナもすこし恥ずかしそうに、
「……あ、あの……おねぇちゃん、かわいい……って……」
か細い声で、そう答えた。
「ふーん…………………………んん?」
その返答に、思わずマユナを二度見するランセだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます