新しい遊び

          ☆    †    ♪    ∞


[二〇××年 某月某日]

[午後一時二五分]

              [公立春日峰高校 一年一組教室]


「新しい遊びを考えた」


 昼食を食べ終え、食休みとして机に突っ伏していたマユナになんとも唐突に切り出すアマネ。

 どややー、という擬音が聞こえてきそうな、自信たっぷりのドヤ顔をしながら。


「ほほう。新しい遊びですか」

「うむ。来い! コマリ!」


 拳を掲げてその名を呼ぶアマネ。




「……………………」




 無言で教室に入ってきたのはコマリ――というよりタヌキだった。


 全身を包み込む着ぐるみタイプのパジャマ。

 ボア生地がふんだんに使われており、もはや触るまでもないほどのもふもふっぷりをうかがわせる。

 腹部にはクッションが仕込まれ、丸く膨れたその腹は特に柔らかそうであった。


 その姿を見たマユナは、がばっと身を起こした。


「これはっ……ぽんぽコマリン! ぽんぽコマリンじゃないか!」


 早くもテンションが振り切れたのか、フードにくっついたタヌキ耳を思うさまもふもふするマユナ。

 コマリはされるがままだった。


「んあー! あざとかわいい! 可能であれば保護したい! ……あれ、それじゃ新しい遊びって?」

「うむ。ここからだ。見ていろ」


 対峙するアマネとコマリ。


 アマネは静かに息を吐きながら、軽く跳躍などして全身をほぐす。


 そして――構えた。


 姿勢と重心は低く、眼差しは鋭く、獲物を捕えるための両手は前に。

 レスリングにおける基本的な構え。

 ――にもかかわらず、そのたたずまいはまるで肉食獣。アマネの外見とはかけ離れたイメージを直接相手に叩きつけるほどの野性を感じさせる。



 対するコマリは直立不動のまま。


 ほとばしる謎の緊張感から思わず固唾を飲むマユナ。


 あくびをかみ殺すランセ。


 数秒の沈黙。




「――――――――っ!!」




 アマネが仕掛ける。

 風を切る矢のような高速タックル。

 その速度と鋭さたるや、マユナの目には『霊長類最強女子』と呼ばれるレスリング選手の姿が重なって見えた。






 ――――――――――――もっふ






 思いきり、アマネはコマリの丸く膨れた腹に顔をうずめた。




「…………あー…………癒される…………」




 そのまま眠りに落ちそうなほど、アマネの両目がとろける。

 コマリは直立不動のままだった。


「あああああなんじゃあそりゃあ! お姉ちゃんもそれやりたい! アマネちゃん代わって!」

「……待てゴリラ」


 アマネが羨ましくなって自分もと声を上げるマユナの肩を、ランセの手がつかむ。




「え、なにランセちゃん」

「……野生の動物は野生に帰さないとダメだろ」




 そうして、ランセによってコマリは更衣室に帰された。

 コマリはされるがままだった。

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