たたいて・かぶって・ジャンケンポン
☆ † ♪ ∞
[二〇××年 某月某日]
[午後一時二二分]
[公立春日峰高校 一年一組教室]
一つの机をはさんで、マユナとコマリが向かい合っていた。
椅子に座らず、互いに立ったまま。
机の上にはピコピコハンマーと、ABS製のヘルメット。
マユナはなにやら腕を組み、顔つきもスパルタの戦士か地下闘技場戦士を想起させるような
コマリの方は普段通りであった。
「――じゃんけんぽんっ!!」
くわわっ、と目を見開いて勢いよくパーを出すマユナ。
そこから数秒遅れて、コマリは静かにグーを出す。
「コマリンコマリン。それそれ、それかぶって」
小声で指示するマユナに応じたつもりなのか、おもむろにヘルメットをかぶるコマリ。
「――ウェーイ!」
コマリの防御が整ったことを確認したマユナは、ヘルメットに向けてピコピコハンマーによる一撃を加えた。
別に強くもなんともない、優しい叩き方。
それは勝負とすら呼べない茶番であったが、マユナは笑顔だった。
「……なにやってるんだお前」
目の前の光景がさっぱり理解できず、その上で聞いても無駄と解っていながらなお、ランセはマユナに尋ねた。
「たたいてかぶってじゃんけんぽん!」
笑顔で答えるマユナに、やっぱり無駄だったと嘆息するランセ。
「勝負にすらなってないけど、楽しいのか?」
「あー、勝ち負けはこの際どーでもよくてですね、ゲームのルールをまったく理解してないコマリンがもう……かわいくてかわいくて」
でへー、と頬をゆるませながらコマリがかぶっていたヘルメットを取るマユナ。
言われてみれば、最初のジャンケンもロクに成立していなかったことにランセは思い当たった。
「……遠見が相手じゃ手ごたえもないだろ」
「んー、そりゃまーそーだけど」
「なら……オレが相手してやる」
「えっ」
マユナにとって、それは思いもよらぬ言葉だった。
ランセはこういった遊びに誘ってもまず乗ってこない。
マユナの記憶が正しければ、ランセがマユナとの遊びに付き合ったのは中学生の時に行った修学旅行の夜以来だった。
「おぉー……! ランセちゃんが珍しくやる気! なんでなんで?」
突如発生したレアイベントが嬉しいのか、目を輝かせるマユナ。
「……さあ、な」
コマリを
――かくして、マユナ対ランセのたたいて・かぶって・ジャンケンポンが実現した。
クラスメイトにとってマユナはいつも変なことをやっているので「なんだいつものゴリラか」と思うだけだが、反対にランセはそのようなことをするキャラではないと思っていたため、やはりそれが意外なのか自然と注目が集まる。
「時にランセちゃん。いっこ聞いていいかな」
「なんだよ」
対コマリの時とは違う真剣な顔つきで、プラプラと手首を振りながらランセに問うマユナ。
「――なんで木刀持ってるの?」
――ランセはなにも答えない。
マユナの脳裏にユアナとの記憶が再生される。
それは走馬灯のフライング。
数秒後、確実に襲い来る死。
その恐怖が見せる幻影。この世への未練。
「――最初はグー! じゃんけんぽんっっっ!!」
それは蛮勇か、それとも覚悟か。
運命に抗うがごとくマユナはその手を突き出した。
二人が出した手は――
マユナがチョキ。
ランセがグー。
――――――――どぱきゃっっっ
マユナがヘルメットを手に取るよりも数段
ランセの木刀がヘルメットを両断した。
「じゃんけんぽんっっっ!!」の最初の「っ」の部分とほぼ同時に放たれたその一太刀は、まさに刹那に迫る速度。
破砕というより切断と呼べるほどの、ほとんど乱れのないヘルメットの断面はそれだけでランセの技量が尋常ならざることを物語っている。
小さな落雷――クラスメイトにはそうとしか見えない一撃だった。
「……………………」
割られたヘルメットと、ランセの顔を交互に見やるマユナ。
ランセは無言のまま。
無言だったが、その冷たい左目は「被らなくていいのか?」と言ってるような――マユナにはそう思えた。
「…………ユ……ユ ル シ テ…………」
マユナの口から哀願が漏れ出す。
カタカタと小さく震えながら命を乞うその姿は、浄化される寸前の低級アンデッドさながらだった。
――この一件以降、ランセはクラスメイトの間で「たたいて・かぶって・ジャンケンポン
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