第26話 幕間

「写真、撮ろうよ」


 そういったのは誰だったか。

 旅行の最終日、車をバックに全員が並び、誰かの持っていたデジカメで集合写真を撮った。

 たった三泊の旅だった。そして、人生最高の旅だった。


「今日は、皆来てくれるかしら」


 その写真を前に由希恵が言う。

 当時の自分が笑いかけている。時の移ろいにより大人びた姿がその正面にはある。


「どうだろうな、聡も景子さんも忙しいって言ってたし」


 開店の準備をしながら光秀が答える。

 皺も白髪も増えたが、面影は当時のままだ。唯一違うところがあるとするならば、


「パパ」


 光秀の足元にくっついて回る愛娘の存在だろう。

 手には溶けかけのアイスをもって走り回っている。

 光秀はその子を抱きかかえると、一口でそのアイスをすべて頬張る。


「あー!」


 子供はもはや棒だけになってしまった残骸を振る。

 そして、


「冷たいなぁ」


「だめー!」


 冷気と量でうまく嚥下できない光秀の頬に、棒を何度も突き刺す。

 子供ながらに容赦のない攻撃を浴びて、光秀は強く抱きしめてその動きを制限する。

 まったく……

 誰に似たんだか、と思いつつ由希恵へ視線を向ける。

 いまだに写真を眺めている彼女に、


「……懐かしいな」


「そうね……」


 その声には当時を思う様々な感情が複雑に混ざり合っているような気がして。

 そこには喜楽があった。後悔もあって、別れも。もう一度あの頃に戻れたらもう少しうまくできたのかもしれないと思う日は数えきれない。

 光秀は目の奥に熱を感じてゆっくりと目を閉じる。

 あれは、ルームシェアを始めて、三年が経った頃――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る