第12話 甘いチョコと甘えた自分
私が覚えているのは、自分が寝ながら首を触ったり、顔を触ったりするたびに腕がつっぱるような感覚がしてあれ?と感じたこと。
そこから私を咎めるような声がして徐々に覚醒すると、あらわになった自分の腕に管がくっついているのが見えました。
目覚めたのは救急。
私はアトピー持ちで寝ながら全身を引っ掻く癖があるのですが、腕に点滴を刺していたので「動かしちゃだめよ」と言われたのでしょう。
しばしの空白があって、次に意識が戻った時には自室のベッドの上でした。
どれくらい寝ていたのか、それだけが心配でリビングに降りると母が話かけてきました。
体調はどうだ、ご飯はたべれそうかと心配の言葉を口にした後、「ごめんなさい」と謝ってきました。どうやら私が薬を多量服用したあと意識が混濁し「〇〇くんのお母さんがいたのに」とずっとうわごとを言っていたみたいです。
以前書いたように、入眠剤を飲むと意識が混濁し自分でもわけのわからない行動をとったり変な言葉を口にします。実はそれだけではなく、普段思っていることや思想なんかも時々言葉にだしているときもあったようです。
今回はその副作用が母の誤解を解くことに役立ちました。
意識が戻ってよかった、誤解が解けてよかったとキャッキャしつつもこの副作用の怖さに頭を支配されました。他に変なことを言っていなかっただろうか…。
不安になり、当時の様子を母に尋ねてみましたがなにも教えてくれませんでした。
多分なにかやらかしたんだと思います。
私が何日寝ていたのかすらも教えてくれませんでした。そこは教えてくれたっていいじゃない…。
それから、すっかり元の日常に戻るというわけでもなく、確かな傷跡が残ってしまいました。
クラスメイトの男子たちに渡そうと用意していたバレンタインのチョコを結局わたせなかったこと。「売女」と罵る言葉が当時の私に重く響き、バレンタインの義理チョコですら母親に誤解されるかもと思うと怖かったのです。
―――――そのチョコは泣きながら自分ひとりで食べました。
そして、ODの癖がついてしまったこと。
寝て逃げる。これはマイナス思考をいったん断ち切るのに有用だとは思いますが、私には甘い毒でした。
少しでも辛いこと、苦しいことがあったら入眠剤を煽る。
そうするとふわふわして、全部が楽しいことのように思えて、泥のように眠ることができる。
これほど心地良いものはありません。
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