第4話 変化、そして消えていくもの
それから一週間以上経っても薬を飲み続けていました。
頭の片隅では「この薬、怖いから止めたほうがいいのでは」と考えていたはずですが、それでも眠れない人間にとって「眠れない」ことが何より辛く、相談して薬を止めるという決断ができずにいました。
入眠剤は、眠れる。この確固たる事実だけで、薬の存在は私にとって宝石よりも価値が高いものでした。
飲み始めてからそう時が経たないうちに、気がつけば日常会話までおかしくなっていました。
私が自覚できたのはやはり「笑い」「泣き」を数分、数秒のうちに繰り返してしまうこと。それを母親との普通の会話中にも発現してしまったのか、母親が私のその姿を可笑しく捉えて(なんらかの冗談だと思った?)笑う姿、私を見て「どうしちゃったの」と顔を覆う姿。それらが鮮明に今でも思い出されます。
会話の途中ではた、となにか思い出したかのようなそぶりで、次の瞬間には泣き出す。あるいは「あはあは」と笑いだす。
そのような人間と私自身は対面したことがありませんがきっと滑稽に、いやそれ以上に恐ろしく映るでしょう。
それでも母と会話している前述のシーン以外、周囲の人の反応が思い出せません。
それどころか当時高校生になったばかり、その高校で「それ」をやっていたのかすら思い出せないのです。
(まあほぼ保健室にこもるかそもそも学校に行けない、早退を繰り返すなどしていたので他人との交流自体が少なかったが)
きっと、頭が眠っていながら日中を過ごしていたのだと思います。
矛盾しているようですが、「自分、頭動いていないなあ」と感じていたことを覚えています。頭が常にフリーズ、スリープしていることに対して危機感をおぼえていたことも記憶しています。
周囲に対する感受性も情動も消えていく感覚。それに対して「ヤバい」と唱える気持ち。二つは激しく鍔迫り合いはせずに、のったりと曇った頭のなかに鎮座していました。
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