第3話 仲良くなるには
詩乃と一緒に暮らし始めて一週間が経過した。
その間、特に変わったことも無く、ただ毎日同じようなことを繰り返している。
詩乃は大体眠っているかテレビを見ているかのどちらかだ。それも見ているのはアニメやドラマではなくニュースだけ。何か気になる情報でもあるのだろうか。
僕は相変わらず自殺をしようとしている。
だが、ここ一週間で考えてしまったのは、詩乃の事だ。
仮に僕がいつの日か死ぬ事ができてしまったら、二度とこの家に返ってこなくなったら。
彼女はどうするのだろうか。
このままこの家に住んでくれるのなら僕はそれでいいと思っている。
お金も、一生遊んで暮らして行けるくらいにはあるし、5人くらいで住んでも広いくらいの家だ。
生活で困ることは無いだろう。
だけど彼女がどうするかは分からない。
正直なところ、僕は彼女のことを何も知らない。
だから、彼女がどうするのか分からない。
詩乃はどうするのだろうか?
出ていって、また道に座って一人になるのだろうか。
あの寂しそうな表情をまたしてしまうのだろうか?
そう考えると、前よりも少しだけ死ぬ事が嫌になる。
……どうしたら良いのだろうか。
僕は早く死にたいと思っている。
だが、この状態の詩乃を残して死ぬのは嫌だ。
そんなことを考えながら、ニュースを見ている詩乃を眺める。
彼女は無表情のまま、食い入るようにニュースを見ている。
そんな様子を見ていると、少しだけ安心してしまう自分がいた。
心のどこかで、きっとこの子は出ていかないだろうと思っている。
しかし、やはり少なからず心配はある。
この子が安心して暮らせるようになって、僕も安心して自殺を試みることが出来るようにするためには何をするべきだ?
……そうだ。ひとつ方法があるじゃないか。
今、彼女が困っていることを解決してやればいい。
詩乃が何に困っているのかは分からない。
だからまずは、彼女に信用して貰わないといけない。
彼女が自分のことを話してもいいと思って貰えるように、ぼくは彼女との距離を少し縮めないといけないだろう。
そのためにはやはり、一緒に出かけたり遊ぶのがいいと思う。
善は急げだ。
僕はニュースを見ている詩乃に声をかけた。
「詩乃。これから買い物に行こうと思うんだけど、一緒に行かないか?」
「………どうして?」
「いや、どうしてって…僕らはお互いのことほとんど知らないし、たまには一緒に出かけてみてもいいんじゃないかと思ってな」
「……わかった。行く」
「ん。じゃあ準備しちゃってくれ。僕は玄関で待ってるから」
「うん」
詩乃はテレビを切ってから、部屋に戻って準備を始めた。
その時ふと気づいたことがあった。
「そういえば、詩乃って自分の服はあれしか持ってないよな」
お風呂のあとは僕の部屋着を貸しているし、この一週間、詩乃はこの家を出ていなかったためあまり気にしていなかったが、初めて出会った時に着ていた白い服以外彼女は持っていないはずだ。
これからは僕も詩乃と一緒に出かける時間を増やしたいと思っている。
なので、彼女の服は多めにあっても困らないだろう。
「今日は大きめのショッピングモールにでも行くか」
僕は行き先をスーパーからショッピングモールに変更して、詩乃が来るのを待った。
詩乃の出かける準備が終わり、目的地であるショッピングモールに向かっている途中にさっきのことを話していた。
「今日はショッピングモールに行って、必要なものを買った後に詩乃の服見に行くから」
「えっ?」
「えっ?」
「どうして私の服?」
「いや、だってその白い服しか持ってないだろ?これから出かける時とか不便だろうし、服は多めに持ってもいて損は無いからな」
「いや、これから出かけたりするつもりは無い」
「あー、今度からは僕が一緒に行きたい時は声をかけるつもりだから」
「………でも、迷惑だし」
「お金とかは気にしなくていい。こういうこと言わない方がいいと思うけど、正直なところお金は有り余ってるんだ」
「……そうじゃなくて、私なんかのために大事な時間を使わせるのがいや」
「はぁ…あのな、君に家に来いって言ったのは僕だし、本当に迷惑だと思ってるなら追い出してるよ。僕は少しも迷惑だなんて思ってない。だから自分のことを『私なんか』なんて言わないでくれ」
「…!……わかった」
「ん」
彼女は、驚いているような、嬉しくて泣いてしまいそうなそんな表情をしていて、今までで一番綺麗で儚い雰囲気があった。
そう。今まで人にかかわらないようにしていて、ほとんど興味がなかった僕が見とれてしまうくらいに。
「どうしたの?」
「……いやなんでもない」
若干赤く染った顔を見られないようにするのに必死で答えるのが適当になってしまったが仕方がない。
「で、結局服はどうする?」
「………買う」
「ん。りょーかい」
一度落ち着く意味も込めてさっきの質問をしたところ、先程とは違う回答が帰ってきた。
僕が言ったことが詩乃の考えを少しでも変えることが出来たのなら嬉しく思う。
そこでふと周りを見渡すと、ほとんどの人がこちらに、いや、詩乃に視線が吸い寄せられていた。
やはり、詩乃は誰から見ても可愛いのだろう。
異性からはもちろん、女性からもかなりの量の視線を貰っていた。
「早く行くか」
「?…うん」
なんでかは自分でもわからなかったが、詩乃が他の人にジロジロ見られているのは少し嫌だった。
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