第1話『 出会い 』
結局、飛び降りる程度じゃ死ねなかった。
あの後はそのまま、誰もいない家に帰り、寝た。今までも色々な方法を試した。
飛び降り、首吊り、ナイフ、拳銃、鈍器。
普通の人ならこれで簡単に死ねる。
でも僕はどれだけやっても無駄だった。
飛び降りても傷一つつかない。
首を吊っても苦しく感じるだけ。
ナイフで刺しても拳銃で撃っても鈍器で殴っても出血しない。
もう嫌だった。
これ以上やっても無駄なことはわかっていた。
でも、少しの希望にかけて僕はまだ自殺未遂を繰り返している。
死なないとわかっていても精神的には疲れるものだ。
……今日はどうしようか。
考えるのも疲れた。
今日も飛び降りてみるとしよう。
昨日の崖よりももっと高く、誰にも見られない場所で。
僕は今、遠くに行くために電車の駅に向かって歩いている 。
いつも通り人通りはほとんどなく、穏やかですごく静かな何も無い道。
死んだあとはこのような感じなのだろうか。
静かで何も無い。
それでいて、人などは存在しない。
死後の世界はこんな風なのだろうか。
早く見てみたいものだ。
そう思いながら歩いていると、僕はいつもとは違う、普通ならありえないであろう光景を目にした。
僕と同い年くらいだろうか、高校1年生くらいの女の子が泣きながら座っている。
その女の子は、小柄で、髪が長く、お嬢様のような綺麗な銀髪をしており、可愛い白の服を着ている。
だが、その服や顔は少し汚れていた。
その子は僕に気がついたのか、少し顔をあげた。
目は綺麗な青色で、肌は白く、まさに「美少女」と呼ぶのにふさわしいような女の子だった。
僕は、見た瞬間に「綺麗だ」と呟いていた。
しかし、その時の彼女の表情からは、なにかに疲れたような、それでいて全てを諦めたようなものが伝わってきた。
そう。
今の自分のように。
だからだろうか、普段から他人と関わることが無いのに、僕は自然とその子に話しかけていた。
「どうしたの?こんなところで泣いたりなんかして。」
「……………」
「お母さんとかは?」
「……………」
……何も答える気は無さそうだ。
なら僕がすることは決まっている。
これ以上この子と絡まないことだ。
だってそうだろう。
向こうが関わることを拒んでいるのだからこちらが無理に話すことも無い。
僕は、そのまま目的地に歩いていった。
………座っている彼女の少し寂しそうな目に気が付かない振りをして。
その後は、特に変わったことはなく、目的地である川の上の橋に着いた。
ここから飛び降りよう。そう決断するのに時間入らなかった。
……いや、少しだけ必要だった。
いくら何度も死のうとしていたって死ぬ前の恐怖が無くなるわけではない。
この恐怖をこれ以上味わわなくてもいいように、僕は今日も足を踏み出した。
やはり、僕は他の人とは違う。
また死ねなかった。
真っ暗になった帰り道をゆっくりと歩いている時にそんなことを考えていた。
しかし、その思考はすぐに止められた。
理由は他でもない、目の前にいる女の子のせいだ。
朝も見た綺麗な青色の目をした銀髪の美少女が朝と同じ場所で座っていた。
ただ少し違うことがあるとするなら、朝見た時よりも、疲れが増しているように見えるところだろうか。
僕は、自殺未遂後で疲れていたからか少しも取り繕ったりせずに「なにしてんだ」という乱暴な言葉使いで彼女に話しかけた。
「生きてる」
彼女はただそれだけ言ってまた黙ってしまった。
ただ、驚いたのはこの子が喋ったことだ。
朝話しかけても無言だった彼女が僕の質問に答えたのだ。
やはり、疲れているから何かを求めているから、このように話したのだろうか。
だとしたら僕はこの子に何が出来る?
……いや、何一つできない。
してはいけない。
だって僕は何度も死のうとしている。
そんな僕が、人と関わってしまったら、また死ぬ前の恐怖が大きくなってしまう。
それは絶対に嫌だ。
……でも、もしも…彼女が求めている「何か」を僕がしてやるだけでこの子が笑顔になれるなら。
幸せになれるなら。
死ぬ前に少しお節介を焼いてもいいかなと思った。
だから、
「お前、僕の家に来い」
ただ、そう一言伝えた。
彼女はどんな表情をしているだろう。
怖がっているだろうか。
怯えているだろうか。
それとも、不思議そうな顔をしているだろうか。
そんな感情が入り交じった。
そして、数時間とも思えるような長い数秒がたった。
僕が顔をあげると、そこには
涙を流して、少し安堵しているような彼女の表情があった。
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