死にたい僕と生きたい君の話

夜桜

プロローグ

今、崖の上に立っている。

周りは真っ暗で何も見えない。


突然だが僕、文月黎ふずきれい は不死身だ。


ただ、よく聞くような不老不死とかとはまた違うものだ。


僕の場合、ちゃんと歳をとるし、体も弱る。

視力が落ちたり、背が伸びたり縮んだりももちろんする。


他の人とは違って、「死ぬ」という誰もがいずれ、必ず体験する恐怖を味わわないだけだ。



そう。

言葉にするだけならこんなに簡単な事だ。


ただそれだけのはずなんだよ。


なのに、それだけなのに、こんなに辛い。


普通の人ならほとんど考えないだろうけど、僕は幼稚園に通っているはずの年齢のころから「死にたい」と思っていた。


死なないということだけ考えると「いいな」とか「俺もそうなりたいとか」言う奴がいるかもしれない。


そんな考えを持ってるお前らに一つだけ言わせてもらおう。




二度と同じことを言うな

二度と同じことを考えるな




もちろん、こんなことを僕が言ったところで誰にも届かないだろうし、仮に届いたとして誰一人聞く必要も無い。


いや、誰一人として聞く耳を持たないだろう。


せいぜい、「何こいつキモ」とか「何イキってんの」とか思われるだけだ。


もし、この能力を誰かに渡すことが出来るのなら、今すぐにでもそう思ってる奴に擦り付けてやりたいよ。


不死のつらさは確かにわかりにくいものだと思うし、それを無理に理解してもらおうなんて思わない。


ただ、この辛さを知らない奴らに勝手に「いいな」とか思われることだけが、ただただ嫌なだけだ。



僕は、もうこれ以上苦しみたくないんだよ。



を抜け出して自由になる方法があるとするなら、それはただ1つ。


「死」


しかし、僕にはその唯一の方法がない。


なぜ僕だけこんなクソみたいな人生なんだよ。


……はぁ


これ以上何かを考えたって意味が無いことくらいわかってる。


そうだよ。

これ以上考えたって、何を思ったって意味が無い。


だったら少しでも早く、ほんの少しでも死ねる可能性がある方に思考をシフトしよう。




僕は今日も、自殺を試みる。




ああ、この崖から飛び降りたら、死ねるだろうか。



全てを終わりにできるだろうか。




あるはずのない「死」という未来にほんの少しの期待を込めて



僕は1歩足を踏み出した。

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