第3話「探偵役の登場」
この市立
教室へ入ってきた
「何が起きてるんだ?」
小学生では起こりやすい男子と女子の対立かとも思ったが、そういう場であれば
「バッジ、探して欲しいんだ」
小蔵達を旺の視界から消すように移動した京一は、「な!」と綾音の方へ顔を向ける。
「はい。亜野君の委員長バッジがなくなってしまったので」
綾音も旺を知っている。出席番号が近い事もあり、ペアを組む事もあるからだ。頼りになるのも同様に。
その頼りになる旺は眉を
「バッジ?」
話が見えていない。
そして話が見えないまま、綾音の一言が引き出す混迷に晒されていく事になる。
「誰かが
綾音も感情的になっているが、小蔵達はもっとだ。
「盗んでねェ!」
「隠してもねェ!」
「見た奴がいるのかよ!」
口々に怒鳴っていく小蔵達に対し、当事者であるはずの亜野は、やはり黙ったままだ。
だから
「人が見てないところでコソコソすんのが好きなのは亜野の方だろ」
濱屋は嘲笑と共に、窓の外に見える校庭の隅に咲くアジサイへ顎をしゃくった。
ピンクの花を咲かせているアジサイは、この小学校の教職員が児童の教育目的で植えているものではなく、昔から校庭の片隅にあるものだ。
教職員も生徒も気に止めないアジサイであるが、鮮やかなピンクの花を咲かせているのは、全員が無視している訳ではない事を示している。
誰が世話をしているのかを知っている綾音は、身を乗り出した。
「亜野君がアジサイの世話をしてるのは、それだけ優しいからでしょ」
アジサイの世話をしているのは亜野だ。
アジサイは難しい品種ではないが、それでも葉につく蜘蛛の巣やアブラムシを取ってやる必要がある。
水や肥料をやるよりも根気の要る作業なのだから、それを誰にいわれるでもなく黙々とやっている亜野の姿は、綾音にとって象徴している事がある。
優しさだ。
それは小蔵達とは真逆の性質でもある。普段は活発でクラスの人気者なのだろうが、こういう時は活発ではなく乱暴という。
乱暴者と優しい者ならば、優しい者に綾音はつく。
本来、大人しいはずの綾音に身を乗り出させたのだから、教室内の空気は火花が散らんばかりとなる。
そのタイミングで旺は言葉をかけた。
「綺麗に咲いてるぜ。ちゃんと丁寧に世話してるな」
遠目から見ても分かるアジサイの鮮やかさに言及する。
「水やりとか肥料とかより、葉っぱにつく蜘蛛の巣を取ったり、虫が来ないようにするのが大変なんだぜ。ちゃんとできてるから、あんなに綺麗に咲くんだろうな」
それは間接的に綾音の味方である事を告げてしまう言葉だった。
そして綾音の視線もアジサイへ向き、そこに咲くピンクのアジサイの中に、一株だけブルーのアジサイが咲いているのが見えてしまう。
パンクに囲まれた中、一株だけ違うアジサイ。
――仲間はずれ……。
亜野や綾音の事のようで居心地が悪く感じてしまうが、何色に咲こうと小蔵の感想は一言。
「雑草だろ」
他の4人に目配せし、大袈裟に肩を竦めて溜息を吐かせていく。
「ドッジ弱い癖に」
確かに亜野はドッジボールが苦手であるし、小蔵達はこの5人でクラス全員を相手しても勝てるくらいではある。
「怒らないから、本当の事言え」
嘲笑が混じる小蔵の言葉は明確な嘲りで、また空気をひりつかせ、今度は旺を前へと出した。
「まぁ、待て。俺も犯人捜しはしないぜ。頼まれたのは、バッジを探してくれって事だからな」
京一へ「手伝ってくれ」と伝えつつ、旺はポケットからハンカチ代わりにしているバンダナを取り出す。
「俺、得意技があるんぜ。気を読んで、本当の事をいった奴が分かる」
これが口から
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