ガキ大将、あらわる

「おい、お前なんだろ。四十万しじまをにがす手伝いをしたのは」

 翌日、完太かんたくんが話しかけてきた。

 このときぼくは初めて知った――昨日、なぎちゃんが体育館にとじこめられていたことを。

 それは最後の授業となる体育が終わった午後3時すぎのこと。なぎちゃんは体育館の倉庫に備品を片づけにいった。そして中に入ったのをみはからって、完太かんたくんは入り口に南京錠なんきんじょうをかけたのだという。


「えぇ……。完太かんたくんさぁ。それ完全にいじめじゃん。引くなぁ……。ぼくは完太かんたくんのことは、腕っぷしはつよいけど気のいいさわやかなガキ大将だいしょう――いうなれば剛田武ごうだたけしから、あらがいがたい暴力衝動ぼうりょくしょうどうだけを引いたような人間だと思っていたのに」

 そこにひょい、と二つの声がした。

「それってふつうは劇場版のジャイアンって言わないデスか?」

「あと、もしかして歌がオンチという当てこすりもふくまれてないデスか?」

 お、出たな。砂川すながわ兄弟。

 彼らは完太かんたくんの友達ともだち――というより、弟分だ。いつも完太かんたくんの横についてまわる双子のため、もし完太かんたくんがRPGのボスだとしたら、この子たちのどっちかが本体だろうなあ、とぼくは思っている。

「へぇ。完太かんたくんの歌がへたなんて知らなかったな」

「まぁ……うまくはねぇよ」

「よし。今度、いっしょにカラオケいこう」

「オンチだって確認かくにんしてから言うことかぁ、それ!?」

 双子はくすくすと笑う。

「引きたて役は大事デスからね!」

「オンチが一人でもいると、安心して歌えるデス!」

 親分のあつかいが軽いなあ。


 そういえば。


「備品の片づけ、昨日の当番は鮎村あゆむらさんじゃなかった?」

「そうだよ。鮎村あゆむらが一人じゃ片づけられないってんで、四十万しじまが手伝ってたんだ」

「え。待って待って。そこに君がカギをかけたんでしょ? 誰もいない体育館にとじこめられて、男子と女子が二人っきり。それって……」


「ラブコメの黄金パターンじゃん!!!」



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