ミステリを読むと、モテる?

 完太かんたくんの話によると、これは鮎村あゆむらさんの計画だったらしい。


 鮎村あゆむらさんはなぎちゃんと同じクラスの女子で、いわゆる学園がくえんのアイドルというやつだ。小柄こがらでスレンダーな体型をした美少女で、読者モデルをしているらしい。学年は同じだがクラスはちがうので、ぼくはあまりなじみがない。

 その彼女がなぎちゃんに近づくために、完太かんたくんと双子を協力者にして、体育館にとじこめられるイベントをしかけたというのだ。


「ったく、なんで四十万しじまなんだろうな。たしかに顔は悪くねえけどよ。運動だってからっきしだし、いかにもリクツっぽいじゃんか」

趣味しゅみが合うからじゃないかなあ」

趣味しゅみ?」

 ぼくはうなずいた。

鮎村あゆむらさんの名前、よく図書室の名簿めいぼで見るんだよ。そのたびにナントカ殺人だとかホニャララ館だっていう本を借りてるから。ミステリが好きなのかも」

「なんだよ。……ミステリって、読むとモテるのかよ」

「そんな理由でミステリを読もうとする人は、たぶん君が初めてだろうね」

 この前も鮎村あゆむらさんは古いミステリを借りていた。たしか……思考機械のなんとか、という本だ。


 彼女たちが入ってから完太かんたくんと双子は入り口にカギをかけた。そして三人で教室にもどった。教室には誰もいなかった。予定では日が落ちる5時ごろにはカギを開けに行く予定だったらしい。


 ところが4時少し前のこと。完太かんたくんの手元にあったスマートフォンに通知があった――そう、スマートフォンの持ち込みは禁じられているが、誰も守っていないのだ――学年のグループチャットにはなぎちゃんのアカウントからメッセージが送信されていた。


「むかえに行きたまえ。一人はきっと退屈たいくつだろうから」


 教室にはなぎちゃんの私服が置いたままだった。彼はまだ体操着のはず。まさかスマートフォンを持ったまま体育をうけていたのだろうか? 先生に連絡れんらくされたらマズい――三人は体育館にもどった。

 入り口のカギはかかったままだった。カギを開けて中に入ると、コートのはしっこで眠っている鮎村あゆむらさんがいた。起こしてみると、会話もなくヒマになったからねてしまった、とのことだった。それから、みんなで体育館を調べたがなぎちゃんはいなかった。


 まさしく彼は、密室みっしつとなった体育館の中から消失してしまったのである。

 

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