十三小体育館の問題

秋野てくと

放課後、ゲタ箱にて

 石山先生に言いつけられていた図書の整理を終え、ぼくがゲタ箱につくころには午後4時をすぎていた。

「おそいぞ。4時には終わると言っていただろうに」

 読んでいた本をとじて、彼はじろりとぼくをにらんだ。


 ぼくたちの小学校ではスマートフォンやゲーム機の持ちこみは禁止となっている。ただし本は別だった。それが公序良俗こうじょりょうぞくに反するものじゃないかぎり、というただし書きはつくが。そしてたった今、彼――四十万しじま なぎがとじた本には『殺人事件』という物騒ぶっそうな四文字がおどっている。ならば、この本はいかがわしいものなのだろうか?

 ところが、である。

 たとえ殺人をあつかうようなものでも、探偵が活躍かつやくするミステリとなると、ふしぎなことに許されてしまう。


 ぼくが委員をつとめる図書室でもそうだ。

 ミステリは子どもが手にとりやすい刺激物しげきぶつとして、貸し出しの常連じょうれんとなっていた。こういったものを読むことで背のびをしたがる年ごろもいるのだろう。ぼくにも覚えがある。やくざ映画を見たあとには自分が強くなった気がするように、ミステリを読んだあとにはかしこくなった気がするものだ。


「それ、面白いの?」

「っ……面白いかどうかはわからない。ミステリは解決かいけつを読むまでは面白いかどうかわからない。文章がへたでも、あらすじが退屈たいくつであっても、読むのをやめるわけにはいかないのだよ」

「つまらなかったらやめればいいじゃん」

 ――そこで気づいた。

なぎちゃん、なんで息がきれてるの」

「……走ったからだ。すこし面倒めんどうなことがあったからな」

「ふぅん」

 そうしてぼくたちは帰った。


 もちろん、そのときのぼくはまだ知らなかった。

 彼が今、まさにこの第十三館川たてかわ小学校・体育館の中から――外から南京錠なんきんじょうのカギをかけられ、脱出不能となっていた密室みっしつの中から――けむりのように消えたばかりだった、ということを。


 事件を知るのは、その翌日のことである。

 

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