第2話 アド・クリーナー
「絶対に見つけ出せ!!せっかく省電モードにしてアド・ロイドをうまくごまかしてたというのに・・・」
「トオルだ・・・あいつがやったんだ!!そうに違いない!!」
「あのいかれ野郎・・・見つけたらただじゃおかねぇ・・・”みえみえの木”につるし上げてやる!!」
大人たちが血眼で俺の事を探し回っている。とっさに近くの森に逃げ込んだのはよかったが、この森の広さなんてたかが知れている。普通に逃げ回っていたら五分もたたずに捕まってしまうだろう。だが、俺は秘密の隠れ家を知っているのでこの通り1時間は堪えた。
俺は小高いずり山にうまく偽装された洞穴にて身を縮めていた。そう、ここはツルマ爺さんのねぐらだった場所だ。まだ小さかったころにはみんなでよくここへきて爺さんの話を聞いたっけ・・・・それで一番よく聞かされた話が、例のアド・クリーナーというものだ。
爺さんが言うにはこの世にはびこる全ての広告を消し去ってくれる魔法の装置で、このおかしくなった世界を救える唯一のものなんだそうだが、子供心に嘘くさく思えてていまいち信用できなかった。それに今の時代、広告とその広告収入がなければ生活すらままならないのに、どうしてそんなものが世界を救うのだろうか。
『トオルや、昔、わしがまだ若かったころはな、広告はまだそこまで危ない存在ではなかったんじゃが・・・μ広告電社とUAGという化け物企業が現れて、互いが互いの広告収入を激しく競い合うようになってからおかしくなっていったんじゃ・・・』
『それでとうとう国も巻き込んだ戦争になって今に至る、ってんだろ?もうその話何回も聞いたぜ爺さん!』
『トオル・・・今この世界は、森羅万象をすべて広告に支配されておる・・・広告を神のようにあがめ、そのおこぼれをもらいながら広告のために生かされるのは、絶対に間違っている。その間違った世界を正しい形に戻すために、アド・クリーナーが必要なんじゃ・・・』
だが、肝心のアド・クリーナーはどういうものなのかを聞く前に爺さんは死んでしまった。その時は別に何とも思っていなかったからどうとは思わなかったのだが、今この状況に陥るそもそもの原因はそれなので、ここまで来たらいっぺんどういう者か突き止めてやろうじゃないか、という気持ちがふつふつと湧いてきた。
しかし、そのためにはまずここから逃げなければどうしようもない。さてどうしたものか・・・と考えあぐねているその時、ねぐらの向こうでがさがさ、と音がした。誰かが近づいてくる音だ!
ああ、とうとう見つかったのか、ここがばれたらもう逃げ場がないぞ。でも今ここで簡単に捕まるのもしゃくなので、俺は最後まで逃げる覚悟を固めてねぐらを出ようとした。しかし、その覚悟は聞きなれた声が聞こえてすぐに消滅してしまった。
「待って!あたしよ!」
出てきたのは俺の彼女だった。無事でよかった、と俺に抱き着いたのでいったいどうしたんだと聞くと、トオルを助けに来たのよ、今なら大人たちも別の方向にいるから今のうちに一緒に逃げようよ、と中々可愛いことを言う。本当に彼女はいつも俺によくしてくれるので、彼女の前ではついついみえを張ってしまうのが俺の悪い癖だ。昨日の発言も元はと言えば彼女の前でカッコいこと言うために酒の力を借りた自分にも責任がある。
下手をすれば村八分にされかねない俺にさえ味方して、一緒に逃げよう、だなんて・・・全く、最高の彼女だ。この子は俺がしっかり守ってやらねば。俺は彼女の言葉を全面的に信じ切って、彼女と共にねぐらを出た。・・・それが、一番の間違いだった。
ゴン!
俺の後頭部に強い衝撃と鈍い金属音がして、たまらず俺は倒れてしまった。誰がやったのかと振り返っても、彼女しか・・・どこからか取り出したのだろうか、鉄パイプを握っている彼女しか見当たらなかった・・・なんで、なんでなんだ・・・
「・・・ごめんね。あたしも広告収入ないと生きられないからさ・・・」
ああ、なんてこった。最高の彼女が、たった今最低の彼女になった。
それから俺は意識を失った。次に目覚めたのは、自分が”みえみえの木”につるされていることを自覚した時だった・・・
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