アド・ウォーズ~広告戦争~

ペアーズナックル(縫人)

金山トオル編

第1話 アドからの逃走

くそっ、どうしてあんなこと言っちまったんだろう。

俺は、金山徹(トオル)は、ひどく後悔した。

そもそも彼女の前で見栄を張ったのがまずかったのだ。

村に一つしかないファミレスで、飲める訳ないのに酒を飲んで、自分がそれで悪酔いすることも知らずに飲んで、飲んで飲んで飲みまくった挙句に出た言葉が


「俺はアド・クリーナーを探しに行く!!ヒック」


それから俺は村中の笑いものだ。会うたびに「アドクリーナーは見つかったか?」とか「アドクリーナー探すの手伝ってやろうか?」なんて言われてもううんざりだ。

腹いせに未舗装の道端に転がっていた石を蹴っ飛ばしてやる。ガチン、と石はロードサイドの広告に当たった。しまった・・・


『一口ごとにのど越しさらさら!!みんなで飲もうヤトミ水!』

『お出かけですか、遠くですか、近くですか。お出かけなら蟹江旅行まで』

『走って健康、歩いて健康、みんなで行こう!八田レジャーパーク!』


看板共が喧しい宣伝文句を並べ始めた。まずい。これは非常にまずい。俺はとっさにその場から逃げようとしたが、もう遅かった。遠くの方からゴロゴロゴロと滑車の思い音が聞こえる。まずいまずいまずい!!アド・ロイドだ!!

ついこの前まで生きていたものごいのツルマ爺さんが言ってた言いつけをすっかり忘れていた。


~「いいか、絶対にこの看板に石をぶつけたりとか、バンバン叩いたりとか、木の枝でゴンゴンと叩いたりしてはいけないぞ。まだ戦争は続いておる。もしこのμ(ミュー)社製触感作動式広告タッチアドスクリーンが与えられた衝撃でもしも動いたら、その音を聞きつけてUAG(アーバン・アド・グループ)製のアド・ロイドがこの看板を壊しに来る。この村はこの看板の広告収入アドセンスで成り立っていることを忘れるでないぞ、よいな・・・」~


ああ、ツルマ爺さん。ごめんよ・・・お金がいっぱいある都市とは違ってここみたいな田舎はこういうデカい広告を立てて、その広告収入に頼らなければ、とうてい生きてはいけないという事は嫌というほど教えられていたはずなのに・・・


「敵対企業広告を確認しました。広告上書攻撃を開始します。」


いかにも機械的な音声を出してアド・ロイドは村の広告に攻撃を開始した。と言って普通の攻撃ではない。攻撃しながら広告を流す、いわゆる”広告攻撃”だ。

こいつらの見てくれは普通のロボットと変わらないが、こいつらはそれにAAS(アド・アタック・システム)を搭載したUAGの特別製だ。早速その両眼から高熱線を放射して村の看板を破壊すると同時に、喧しい広告が奴らからも流れてくる。


『とんでとんでとんで~富田センタープール~』

『しろこ~のビールはう~まいぞ~』

『いつも江戸前、江戸橋寿司にへい、らっしゃい!!』


武器を使うのにはお金がかかる。だから、攻撃する度に広告が流れる。

そして、それを防御するのにも金がかかる。だから、看板も広告を流して防御する。

何をするにも広告が流す。そしてその広告収入でをまるで弾薬を込めるようにチャージしながら戦うので、このμ社とUAGの熾烈な広告戦争アドウォーズは始まってからおよそ50年間全く終わる兆しを見せず、ほぼ泥沼状態であった。


「アド・ロイドが出たぞ!!」

「誰かが看板を動かしたんだ!!」

「あっ、あそこに誰かいるぞ!!捕まえろ!!」


村の連中もとうとう騒動に気づいた。この原因がおれと知ったら皆血相変えておれをがんじがらめにし、”みえみえの木”に生贄として突き出すだろう。そうなったらとうとうおしまいだ。


今の俺はそこから一目散に逃げ去るしか、いい考えが思いつかなかった・・・

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