第25話 とりあえず、ぶっ放す

「ウルティアの魔法って名前が凶悪よね。ジェノサイドとか特にそうじゃない?」


 工業都市から伸びる道を抜ける頃、エレクシアが唐突にそんなことを言い出した。

 いつかは誰かに言われるかな、とは思っていたけどあれだけ魔法を乱発したら仕方ないか。


「魔法の名前は友人に無理矢理つけられたので、気に入っていないものもあります」


 イービル・ファンデーションとかね。

 なんで悪魔なの? エンジェルスマイルとかでよくない!?

 と、思っていた頃が私にもあったんだよ。


 今では受け入れているけど、初めて見せた魔法に意味の分からない名前をつけられたときは驚きのあまり声を失ったと記憶している。

「新しい魔法が使えるようになったら、必ず俺に見せろ」と命令され、それは出会ったときから今まで続いている。

 何を隠そう、私の魔法に名前をつけているのはデュークだ。

 友人というよりも幼馴染だけど細かい説明は省いて構わないだろう。


 アクティブガードナーの名前をつけられたときは「人間を虐殺してこい」とか言われないかハラハラした。

 実際にそんなことは言われなかったけど、デュークは私に一つだけ約束を取り付けた。

 それは「不用意に魔物を殺すな」というものだ。


 これから魔王となる彼にとって、魔物は絶対に守らなければならない存在なのは分かっている。

 彼は良い王になるだろう、と確信した私は彼の前でレベル上げの作業を止めた。

 しかし、それではデュークのレベルが上がらないので、水分身での経験値荒稼ぎ計画が始まった訳だ。

 私の魔力と引き換えに彼のレベルを上げる。私ってば、なんて優しいんだ。


「その友達って男の子でしょ?」

「えぇ、そうですけど。どうして分かるのですか?」

「そりゃあね! いかにもじゃない。ソードブレイカーとか特に」


 えぇ!?

 ソードブレイカーは一番お気に入りの技名なのだけれど。

 デュークにしては良いセンスだと思ったから、大切に唱えるようにしているのに。

 私の感性が彼に侵されている!?


「……そ、そうですか」

「あんたって普段は攻撃しないから、ソードブレイカーってよりカッコよく見えるのよね」


 うんうん。それは私も同感だ。

 レクソスはソード、エレクシアはハンマー、シュナイズはサイズを持ち、接近戦と魔法発動の手助けにしているけど、私は常に手ぶらだ。


 私が魔法武器を持たない理由としては、デュークに「持つな」と言われたからで、特に異論もなかったからその命令を受け入れた。

 そんな彼はありとあらゆる魔法武器を買い集めていたけど、結局なにも持たない戦闘スタイルに落ち着いている。

 シンプルが一番良いとの事だけど、未だに魔法武器をコレクションし続けているのだから、なにがしたいのか理解できない。

 しかもそれらは魔王城に保管されていて、おごそかであるべき魔王城が彼のおもちゃ箱と化している感が否めない。


「アクティブガードナーは常に発動させているのよね? 疲れない?」

「はい。お守りみたいなものですね。安全のためですから仕方ないと割り切っています」


 ちょっとした嘘をついておこう。

 本当は水の精霊からの魔力供給で賄っているから、アクティブガードナーは私の魔力を消費しない。 

 なんて素晴らしいシステムを構築したのだと自分を褒めたくなるけど、全ては精霊さんのお陰だから毎日就寝前と起床時には密かに拝ませてもらっている。


 そんな私でも魔力枯渇は経験している。

 草むらから飛び出した魔物から私を守ったデュークが大怪我を負い、放置したら死ぬと判断して最上位回復魔法を発動した時だ。


 ヒーリング・キュア・リカバリー

 全てを無かったことにできる究極の魔法だけど、現在は禁止魔法に指定されている。

 私は勝手に師匠とあおいでいるマリンさんの本を手に入れたから使用できるだけで、普通の水属性魔法使いはその魔法の存在すら知らない。


 術者の魔力と引き換えに対象者を救うため術者は死亡するということだけど、私は奇跡的に一命を取り留めた。

 それはデュークが倒れた私に魔力を送り続けながら屋敷に運んでくれたからで、初期治療が遅かったら私はこの世にいないと思う。

 だからデュークは幼馴染であり、命の恩人でもある。

 まぁ、私も何度か命を救っているからお互い様だけど。


「広範囲攻撃魔法って具体的にどうやって発動させるの? なんか上手くイメージできないのよね」

「んー、そうですね。こう、シュバッと魔力構築して、ガバッと覆って、ドバッとぶっ放す感じです」

「……あー、もう大丈夫、ありがとう」


 なんだよぉ、せっかく教えてあげているのに。

 ずっと隣で「魔力構築理論とかは得意な癖に、実技になると感覚的すぎるのよ」などとブツブツ呟いているエレクシアを横目に空を見上げる。


 そういえば、デュークも似たようなことを言ってたな。

 そうだ。私の座右の銘を教えてあげよう。


「いいですか、エレクシア。魔法なんてものは難しいことを考えずにイメージしたものをぶっ放せばいいんです。マリン師匠はおっしゃいました。とりあえず、ぶっ放せば何とかなる。と」

「マリン師匠は何者よ? あんたに師匠なんているの?」

「会ったことはありませんが、素晴らしい水属性魔法使いです」


 そんな可哀想な人を見るような目を向けないで欲しいものだわ。


「やっぱりあいつ野蛮だぜ」

「それがウルティアの良いところじゃないか」


 こら男子。全部、丸聞こえですよ。


 そうこうしていると空気中に湿気が帯びるようになり、巨大な湖に辿り着いた。

 さてさて、最後の勧誘はどうなるかしら。

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