第24話 土帝の魔女
次に向かうのは"
難なく町には入れたけど、どの住人も土気色をしていて不気味だった。
ここは彼女が運営する工業都市で住人は全てゴーレムである。
ここでも同じような展開になるような気がしてならない。
「こんにちは、"土帝の魔女"。ボクはレクソス、グランチャリオ魔法学園から来ました」
都市の中心に建設された工房に入り、いつも通り事情を説明すると彼女は問答無用で襲いかかってきた。それも私だけを目がけてだ。
「ウルティア!」
工房の扉を壊し、外に投げ出された私の服に砂埃がまとわりつく。
自動防御魔法が発動するのでダメージはないけど気分の良いものではない。
ここで彼女を打ち負かして言うことを聞かせるのも有りかもしれないけど、レクソスはなるべく穏便に済ませたいと言うだろうな。
「……いきなり攻撃なんて失礼な人」
地面が盛り上がり、無数の棘となって迫り来る。
どれだけ水の壁を作ろうとも土は水を吸収して、より強固な棘となってしまう。
それが土属性魔法と水属性魔法の優劣関係だ。
「ハイドロスマッシャー」
正面に出現させた水球を掌で撃ち出し、レーザーのように発射させる。
レインシューターの上位互換となる直射型射撃魔法は立ちはだかる土の壁に穴を空けて"土帝の魔女"の工房をも貫く。
絶句する三人を無視して歩き出し、追加攻撃をするべきか悩んでいると工房から飛び出したゴーレムが拳を振り下ろした。
「アクティブガードナー」
私は私自身を癒す魔法だけは使用できない。それならばどうするのか。
辿り着いた答えは『攻撃を受けなければいい』というものだった。
この魔法は常時発動させていて私に危機が迫った場合に限り、自動で防御してくれる。
ゴーレムの拳がドロドロになって崩れ落ちる。
その様子を見ていた"土帝の魔女"は町中に配置してあるゴーレムの住人を呼び寄せて私達を囲んだ。
「これはさすがにヤバいだろ。行くぞ、レクソス!」
「あぁ! ウルティアは一度下がって魔力の回復をしてくれ」
「いえ、その必要はありません。たまにはフォーメーションγも使わないと鈍ってしまいます」
「え、でも、だって、土属性魔法使いよ。あんたと相性最悪なのに――」
いきなり攻撃された瞬間から私は怒っている。
かと言って、彼女をボコボコにする訳にもいかないので、彼女以外の全てに八つ当たりすることに決めた。
エレクシアの声が上擦っているような気もするけど、頭に血がのぼっている私の勘違いだろう。
ゴーレムの住人はレクソス達を無視して私だけに襲いかかる。
「アクティブガードナー・ジェノサイド」
空中、地中、前後左右、全ての方向から同時に攻撃が繰り出されても私には届かず、全てに反撃していく。
土属性魔法が弱点であることに変わりはないけど、私には前世の記憶という武器がある。
まさに『
水のような小さい力だって積み重なれば強大な力になるの。だからね――
「エレクシア、相性なんて関係ないのですよ」
敵の攻撃を受けつつも彼女達を振り向いてそう告げると、なぜか不安そうな顔でこちらを見ていた。
そんな顔をしなくてもそろそろ全滅できますよ、という想いを込めて微笑み返す。
次第に敵の攻撃が止み、射撃魔法や砲撃魔法を使用するようになってきたのでもう一つ上位の攻撃魔法で終らせよう。
これで"土帝の魔女"には一歩も触れず、穏便に済ませられるだろう。
「マーキュリー・ソードブレイカー」
無数に出現させた水球で剣を造形し、私を囲むゴーレム達に追撃させる。
全ての水の剣を撃ち終えると町中から集まった百体以上のゴーレムは全て土に還った。
「広範囲拡散防御貫通攻撃魔法――ッ!?」
久々に魔力残量がわずかになってしまった。
この魔法は効率よく経験値を獲得する為に編み出したものだけど、そんなに凝視させると恥ずかしい。
少しやり過ぎたかな。少し大人気なかったかもしれない。
密かに反省しながらへたり込む"土帝の魔女"の前に立つと、縋るような瞳を向けられてしまった。
そんなに怯えなくてもいいのよ。貴女に危害を加えるつもりはないもの。
「や、止めて! 来ないで! 殺さないで!」
私の言葉を聞いてくれなくなってしまい、見かねたレクソスが代わりに交渉を引き受けてくれたけど、難航しているようだ。
「これ、問題になるんじゃねーの?」
「そうですね。ただの学生にいきなり攻撃した上、集団で襲いかかるなんて事件ですよ」
「……あー、いやー、うん。そっちじゃねーかな」
珍しく歯切れの悪いシュナイズの隣ではエレクシアがそっと私に触れていた。
「さっきの魔法、発動しないわよね?」
「勿論。敵意と殺意の籠もった魔力を感知すればいつでも自動で発動しますよ。これのお陰で安眠できています」
結局、"土帝の魔女"もパーティーメンバーには勧誘できなかったらしい。
折角の土属性魔法使いなのに勿体ない。
工房をめちゃくちゃにしてしまったのは申し訳ないと思うけど、ゴーレムくらいなら簡単に造形できるだろうし、町の復興はすぐに叶う筈だ。
私達は最後の魔女に望みを掛け、湖へと歩き始めた。
他の三人の足取りが重いような気もするけど、元々歩く速度が遅いから気のせいだろう。
不名誉なことに、私ことウルティア・ナーヴウォールは一つの都市を壊滅させた学生として世間を騒がせることになった。
都市ではなく、そこで働くゴーレムを破壊したのだ。それに先に手を出したのは向こうだぞ。
もしもインタビューされる日がくるなら、こう答えよう。
正当防衛です、と。
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