第23話 パーティー編成を考える

 風の塔を後にした私達は舗装され始めた道を歩き進めた。

 さっきは少し言い過ぎたかもしれないな、と反省しつつシュナイズの背中を眺める。

 いつもは大きな態度でなにかと突っかかってくる彼の背中は今はやけに小さく感じた。


 もしも、ゲームと同様に"風紋の魔女"が仲間になっていたとして、パーティー編成を行わなければならなくなっていたら、どうしていたのだろう。

 本当は私が抜けたいところだけど、風属性魔法使いは二人も要らないから必然的にシュナイズとの入れ替わりになる。


 "風紋の魔女"の能力値がゲームと同じであれば攻撃力は大したことないけど、攻撃範囲の広さと補助魔法は優秀ということになる。

 レベルを上げれば雑魚モンスターを一掃できるから重宝するに違いないだろう。


 対してシュナイズは攻撃力は優秀だけど、各個撃破を得意としているから戦闘終了までに時間がかかる。それに補助魔法は期待できない。

 人物像として口は悪いけど、突発的に行動するレクソスと気の短いエレクシアを止められるし、意外と全体を見る能力も高い。


 うちのパーティーは広範囲魔法を使えるのが基本的に後方にいることが多い私だけなんだよなぁ。

 レクソスの雷属性魔法も五体の敵に同時攻撃できれば良い方だろうし、エレクシアは一体ずつ確実に仕留めていくスタイルだし。

 冷静に分析するとパーティーに入れる方が良いのは"風紋の魔女"になるのかな。

 あれやこれやと考えながら最後尾を歩いていると、急に立ち止まったシュナイズの背中に顔をぶつけてしまった。


「ぁう。すみません」

「あ、わりぃ。ちゃんと前見て歩けよ」


 どうやら、この辺りで休憩する為に立ち止まっていたらしい。

 座り込んでからも自分の世界に没頭していると三人がジッとこちらを見ていた。


「なにか?」

「さっきからなにを考えているのかなって」

「すごい真剣な顔だけど、大丈夫なの?」

「えぇ、もう終わりました。シュナイズさんが広範囲攻撃魔法を使えれば良いという結論に落ち着きましたので」


 まさか自分が話題の中心になっているとは思わなかったのだろう。

 鞄の中を漁る手が止まった。


「んだよ、お前が魔力コントロールが下手クソって言ったんだろ。広範囲魔法なんか使って、お前らの方にも飛んで行ったらどうすんだよ」


 あ、この人、意外と繊細かつ執念深い人だ。まだ実技授業のときのことを気にしていたのか。

 私の発言で彼の伸び代に蓋をしていたのならば、早く謝罪して撤回しなければならない。


「あれは方便です。今のシュナイズさんは魔力コントロールが上達していますから、問題ないと思います。それに――」


 彼はもっと自信を持った方がいい。

 正確には歓迎パーティーや実技授業のときのような自信を取り戻した方がいいと思う。


「もしも私たちの方に飛んできても私が防ぎます。怪我をしたら治します。だから気を遣う必要なんてありません。その為に私が後ろに控えているのですから」


 こう言っておけば少しは安心して戦闘ができるだろう。

 仮に魔法が暴走しても一人だけに責任を負わせず、みんなで対処すればいいだけのこと。

 "風紋の魔女"も言っていた通り、四人で話し合って選択肢を見誤らないようにしよう。


「お前って、なんて言うか、うん、あれだよな」


 どれだろう。

 全然、分からないのだけれど。


「ウルティアはもっとボク達を信頼して良いと思うな。手始めにボク達を呼び捨てにしてみよう!」


 なんだ、敬称略で良いなら早く言ってくれればいいのに。

 デュークは出会って半日で「呼び捨てにしろ」って言ってきたよ?


「レクソス、次はどの魔女の元へ向かいましょうか。シュナイズ、次の戦闘では広範囲攻撃魔法を使ってみて下さい。こんな感じでいいですか?」

「斬新で良いね! グッと距離感が近くなったよ!」

「マジで調子が狂うぜ」


 自分達がそう呼べと言ったのに、なぜそんな両極端な反応なんだろう。


「よし! じゃあ、次はこのまま道なりに進んで工業都市に向かおう! ウルティアの弱点を突いてくるかもしれないから、ボク達が君を守るよ」

「期待していますね」


 意気揚々と歩き出したレクソスに続くとエレクシアが歩幅を合わせてくる。


「やっぱりあんたは堅いわよ。さっきくらい砕けてると取っ付きやすいと思う」

「私、お堅いですか? 考えたこともありませんでした」

「せっかくパーティーを組んでる女同士仲良くしたいじゃない」

「じゃあ、レクソスのことをどう思っているのか教えて下さい、エレクシア」

「は、はぁ!?」


 赤面しながら大声を上げるエレクシアがポカポカと私の腕を叩いてくる。

 こういうことを素でできるからメインヒロインなんだろうな。

 レクソスもこちらを見て微笑んでるから、きっとエレクシアの好感度は爆上がりしているし、二人の明るい未来は目の前まで迫っている筈だ。


「あ、あんたはどう思っているのよ」

「ふふん。内緒です」


 またしても顔を赤らめているエレクシアと騒ぎながらレクソスとシュナイズを追いかける。

 思い出した。これが女子トークってやつだ。

 

 二人に追いつくとさっきまで微笑んでいたレクソスが真面目な顔つきとなって、私達をジッと見下ろした。


「ボクは五人の魔女が仲間になったとしてもパーティー編成は変えないよ。仮に"火焔の魔女"と"風紋の魔女"が仲間になると言っていたら、エレクシアとシュナイズはそのままで彼女達をサブメンバーに回していた。だから、これから会う土属性の魔女と水属性の魔女がどんなに強くて優秀でも君を追い出すことはない」

 

 実はレクソスも私の心を読んでいるのだろうか。

 そこまで明言されてしまうと反論できない。

 レクソスや他の二人が必要だと言ってくれるのなら、もう少しこの居場所を楽しんでも怒られないかな。

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