第18話 火焔の魔女

 魔王の手先との戦闘を終えて目的地である山に到着すると絶賛、山火事中だった。


「火事よ、火事!? ウルティア、早く火を消して!」

「落ち着いてください。これは火属性の幻惑魔法です。私でもこの山火事は消せませんよ」


 この地に住むのは"火焔かえんの魔女"と呼ばれている女性だ。

 女王陛下からはその名前しか聞いていないので見た目も能力も分からずに、ここまでやってきたことになる。もっとも、私だけは全ての情報を知っているのだけれど。

 彼女は何よりも面倒事を嫌い、こうして来訪者を追い払おうとする。

 そしてイベントが発生するのだ。


「みんな、小さな女の子が魔物に襲われている! 助けに行くぞ!」

「なんでこんな燃えてる山に一人でいるんだよ!?」

「そんなこと言っても仕方ないでしょ! ほら、さっさと行くわよ」


 この山に出てくる火属性の魔物に対してエレクシアは有効打がなく、シュナイズは弱点を突かれてしまう。

 そうなるとレクソスか私が頑張るしかない。


「ウルティアはその女の子を守りながら、ボク達を援護してくれ」


 的確な指示だ。彼はこのパーティーのリーダーとしてしっかり成長している。

 この調子でレベル上げを行えば魔王を倒せるだろう。でも、それは――

 今は考えるのをそう。

 

 このイベントは幼女を守りながら敵を全滅することでクリアになるイベントだった筈だ。

 案の定、シュナイズが真っ先にやられそうになっていたので彼を回復しつつ、幼女の周囲に水属性の防御魔法を展開する。

 私はジッと見上げる幼女の視線に居心地の悪さを感じながら回復魔法を続けた。


「おにいさんたち、ありがとうございました」

「どういたしまして。でも、どうしてこんな場所に一人で居るんだい?」

「きのみをとりにきてまいごになっちゃったの」

「はぁ。私達は行くから気をつけて帰るのよ」

「うん。ばいばーい」

「待って下さい」


 満面の笑みで手を振る幼女を呼び止めるとこれまでの笑顔が消え失せ、感情のない声で「なに?」と聞き返された。


「私達は貴女に会いに来たのですよ、"火焔の魔女"」

「なにっ!? こんなちっこいのが魔女だと!?」

「おねえちゃん、なんのことかわからないよ」

「そうですか」


 私は容赦なく大量の水を頭上に降らせた。

 しかし、彼女が濡れることはなく水蒸気となって空に消える。


「彼女の本当の姿が見えましたか?」

「……あ、あぁ、見えるよ。まさか既に魔法にかかっていたなんて」


 そこには幼い女の子はおらず、オラオラ系の成人した女性が怠そうに立っていた。

 火属性のキャラクターと言えば熱血系を思い描きがちだけど、このゲームにおいては最もやる気のない人物である。


「おい~、いきなり水ぶっかけるとかないわ~。帰りたいわ~」


 ほら、見た目と言動が一致しないからみんなが困惑しているじゃないか。

 これも幻惑魔法の一種と思えば、彼女が優秀な魔女の一人と言われても納得できる……のか?


「ボク達は魔王討伐の旅をしている、王立グランチャリオ魔法学園の生徒です。力を貸してくれませんか?」

「え~、魔王? ヤだな~。そもそも火属性の魔女いるじゃ~ん。あーしいらないよ~」


 確かに彼女の言うことは正しい。彼女をパーティーに入れるなら、エレクシアが不要になってしまう。

 サブで置くなら問題ないだろうけど、エレクシアとのレベル差があるので絶対に頼ってしまうだろう。

 そうなるとメインヒロインが腐ってしまわないか心配だ。


「それに魔王って強いよ~。なんで戦うの~? 何かされたの~?」

「こいつはなぁ、聖魔戦争に巻き込まれて家だけを焼かれただよ!」


 おいおい鳥頭。"だけ"を強調するんじゃない。大した損害がなかったみたいに聞こえるだろ。

 何気なく言っているけど、この会話シーンにおいて一番重要な場面だぞ、シュナイズくん。


「へ~。じゃあ、とりあえず君達だけで行ってきて、ダメだったら何か手伝うよ~」

「何かってなによ?」

「ん~? 物理系打撃魔法でぶっ叩くことしかできない火属性魔法使いに戦い方を教えるとか~?」


 あからさまに不機嫌になるエレクシアを宥めるレクソスは魔王討伐についてのアドバイスを求めていた。


「魔王はね~。物理魔法だけじゃ勝てないらしいよ~」


 仲間にはなってくれなかったのは当然だ。

 ゲーム上では"火焔の魔女"の放った火属性上位攻撃魔法の流れ弾が私の家族の命を奪い、その罪悪感からレクソスに手を貸すというストーリーになっている。

 仲間となった後にウルティアへ謝罪するイベントも発生するのだけど、それは唐突に訪れた。


「お家壊しちゃってごめんね~。でもさ~、君だったら家も家族も領地も守れたかもね~」


 語尾を伸ばす話し方は変わらないけど、謝罪が本心であるということは汲み取れる。

 素直に謝罪を受け入れ、私達が魔王に敗れたときはエレクシアを弟子にするという約束を取り付けて、燃え盛るように見える山を降りた。


 それにしても買い被り過ぎだと思う。

 いくら火属性魔法の弱点が水属性魔法だとしても領地一帯を焼き野原にしてしまう程の火属性の上位攻撃魔法と真っ向勝負することは不可能だ。

 せいぜい、包み込んでなかったことにするくらいが限界かな。

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