第12話 同級生5人、ドラゴン5体

 デュークの土属性魔法はまだ闇魔法と呼べるほど完璧ではなく、まだまだ訓練が必要な状態だ。

 中途半端な力は危険だから私がいないときの使用は禁止している。


 デュークと二人きりで訓練場に籠もっていると近付いて来る人の気配に気付いた。

 この魔力の澱みは教師ではない。霧の魔法で隠れてもいいけど、別に見られて困ることはないし。


「ねぇ、デューク。今から人が来るわ。誰か分かる?」

「こんな時間にここを使う奴なんて勇者候補くらいだろ」

「ふぅん。正解だけど計算式が間違ってる。魔力感知してから答えてよ」


 この言い回しは教師みたいで面白い。

 それにしても人に物事を教えるのって難しいんだな、と痛感している今日この頃である。

 もっと簡単に私の感覚が伝わればいいのに。


 デュークの答えた通り、訓練場の出入り口からレクソス、エレクシア、シュナイズが顔を出した。


「やぁ、ウルティア。今日は休みの日なのに熱心だね」

「そのセリフはそっくりそのままお返ししますよ」


 レクソスとデュークは初対面ではないけど、なぜか壊滅的に馬が合わない。

 例えるなら、反発しあう磁石のようだ。

 それは本人たちも自覚しているようで不用意に近づかないようにしているようだった。


「レクソス」

「デュゥ」


 そのくせ、こういう時は息ぴったりだったりする。

 これは一体どういうことなのだろう。


「ウルティアってデュゥと仲良いんだ」

「どうでしょう。実技のテスト勉強に付き合っていただけですよ」


 私とデュークの関係は明るみにしない方がいいと思ったけど、なぜ彼は少し機嫌が悪いのだろう。

 万が一、バレたらどうするんだ。

 無駄に気を揉まないといけないなんて、それもこれもデュークがこの学園に入学したのが悪い。


「ボク達も付き合うよ。確かノームレス寮の生徒は造形魔法のテストだったよね」


 別にデュークだって土属性魔法に関してはなんら問題はないのだから練習する必要はないけど、言い訳に使ってしまったからには仕方ない。

 そうやってチラチラこっちを見ないで。あとで謝るから話を合わせてちょうだい。


 レクソスに促されたデュークがイライラしながら魔力構築を始める。

 ちょ、ちょっと待って。なにをする気なの!?


 ただの造形魔法にここまでの魔力は必要ない筈なのに、デュークはいつにも増して眉間に皺を寄せながら目を閉じる。

 これはダメなやつだ。

 なにを言っても止めないだろうと諦め、黙って行く末を見守ることにした。


「ガイアメイク・ロックドラゴン」


 デュークの魔力に訓練場の土が絡まり、西洋風のドラゴンを形作って咆哮する。

 まさか見栄を張るだけの為にこんなことをするとは……。まったく。


「かっけぇぇえぇぇえ」


 あぁ、パーティー内にもバカがいたのを忘れていたわ。

 瞳を輝かせるシュナイズが期待の眼差しをデュークに向ける。


「お前のも作ってやろうか?」


 あぁ……ほら、もう!

 調子に乗っちゃったじゃない!

 どうなっても知らないからね。


 かつてない程に嬉々として風属性魔法を発動させたシュナイズに合わせて、デュークが造形魔法を発動させると嵐を纏うドラゴンが形作られた。


「ヤベぇぇえぇぇえ」


 だからそんなに興奮するなって、引っ込みがつかなくなるから。


「ほら、お前らもさっさと魔法を発動しろよ」


 レクソスもエレクシアもだんだん興味が湧いてきたのか、完成した雷のドラゴンと炎のドラゴンを見上げて興奮している。

 そして四人の視線が私に突き刺さった。


「わ、私はいいですよ。こんなに造形できるならテストも合格でしょう」


 四人の目が怖い。


「ですから、私は……」


 四人からの圧がすごい。


「あ、あの……」


 私は水のドラゴンを見上げながら、同調圧力に屈した自分を恥じた。

 五体のドラゴンは魔力を提供した主に性格が似るのか、それぞれの行動が面白い。

 いやいや、そんなことはどうでもいい。


 今のこの世界にドラゴンは存在しないとされているのに、五体も学園の訓練場にいたら問題になってしまう。

 早く造形魔法を解除するようにデュークへ促したけど、彼は得意げに笑い、両手を合わせ始めた。

 強力な力が反発するようにデュークの手は合わせ切れないようだった。

 それを無理矢理に押さえ込み、パンッと甲高い音が鳴る。

 同時に五体のドラゴンが身を寄せ合い、五つの頭部を持つ一体のドラゴンへと姿を変えた。


「これが俺の力だ」


 キメ顔で言われても困る。

 最後の魔法は魔力吸収統合魔法であり、闇魔法と言われても疑えないものだ。

 案の定、レクソスの眉がピクリと動いたのを私は見逃さなかった。


 五属性魔法全てを与えられたドラゴンは砂埃を巻き上げながら巨体を持ち上げようとしている。

 こんなものを遊び半分で生み出したことも問題だけど、世に解き放つことだけは絶対にダメだ。


「デューク! いい加減にしなさい!」


 当の本人は知らん顔しているが、レクソス達は狼狽している。

 普段はこんなに大きな声を出さないから仕方ないか。

 あぁ、またしてもデュークのせいで隠していた一面が露呈してしまった。


「ウルティアって結構怖いよね」

「怒られせない方が良い系だな」

「デュゥ! ウルティアの言う通りだ。ボク達は少し遊び過ぎた。造形魔法を解除しよう」


 そんなことは分かっている、というような表情のままデュークが闇魔法と土属性魔法を同時に解除する。

 今まさに飛翔しようとしていたドラゴンは消滅して、舞い上がった砂が落ちてきて視界が奪われる。


「あ、やべ」


 そんな不安になるようなことを私にだけ聞こえるように呟かないでよ。

 なにかやらかしてしまったみたいだけど、既にドラゴンは消えてしまったので手の出しようがない。


「どうしたの?」

「どっか行った」

「ん?」

「造形魔法の解除よりも先に闇魔法を解除しようとしたら、バランスが崩れて奴がこの世界と統合された」


 それは、つまりどういうことなのだろう。

 困惑する私の耳元にデュークの顔が近づく。


「奴はこの世のどこかにいる。旅の道中で見つけたら倒しておいてくれ。お前なら容易たやすいだろ?」


 まったく。昔からなにも成長してないじゃない。

 いつも尻拭いさせられる私の身にもなって欲しいものだわ。


「このことはレクソス達には内緒よ。それから顔が近いわ。誰もいないときならいいけど、みんなに見られたらどうするの」


 視界が晴れようとする中、私とデュークはそっと距離を取る。

 今日のデュークはどこか変だった。

 それは私も同じで、幼馴染の能力が認められたことが嬉しかったのかもしれない。

 でも、いくら気持ちが舞い上がっていたとはいえ、架空の存在を生み出すのはよくないと思う。

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