第13話 学外実習は危険がいっぱい
この学園には学外実習というものがあり、生徒は四人でパーティーを組んで実際に魔物を討伐していく。
このパーティー組みというのが厄介で四属性の魔法使いを一人ずつ配置するのが定石だけど、まれに仲の良いメンバーでパーティーを組んだ結果、バランスを無視する生徒がいる。
エレクシアの視線の先には火属性魔法使い四人のパーティーが魔物と戦っており、攻撃魔法でゴリ押ししていた。
「あんなパーティーって正気なわけ!?」
それを君が言うのか。私達のパーティーも大概だと思うけど。
「攻撃は最大の防御だとシュナイズが言っていましたよ。と言ってもレベルの高い魔物の相手は難しいでしょうね」
「そうだね。ここは低レベルの魔物しかいないから楽だけどダンジョンとかはキツいだろうね」
「女王陛下に認められた最強パーティーのオレ達にとってはなんてこと無いエリアだぜ」
この数ヶ月で大幅にレベルアップと好感度アップを成し遂げた私達は学園内でも有名なパーティーとなっていた。
他の三人は今日の学外実習の成績に満足して学園に戻ろうとしている。
正直、この程度ではまだ魔王を倒せないから今後も訓練の継続が必要そうだ。
この学外実習はパーティーを組まずに参加している生徒が一定数いる。その一人がデュークだ。
彼は一人で黙々と土属性魔法を用いて魔物を倒す振りをしていた。
「じゃあ、私はここで」
「え? 一緒に帰らないの?」
「えぇ、もう少し残ってレベル上げをします」
「お前は何を目指してるんだよ」
「いくら君でもソロだと危険じゃないか?」
心配してくれるのは嬉しいけど、私にはもう一人の生徒がいるので気にせずに帰って下さい、とは言えないので適当な言い訳を述べて霧の中に消える。
「あ、ちょっとウルティア!? もう! すぐに消えるんだから!」
実際にはまだこの場にいるから会話は丸聞こえなのですよ。私がいない所で陰口を言って下さいね。
この霧隠れの魔法は非常に便利だけど、便利すぎるが故のデメリットも存在する。それは他人の悪口が聞こえてしまう事だ。
今も私が目の前にいるとは知らずにクラスメイトの女子達が囁いている。
「水属性魔法使いのくせに攻撃魔法なんて汚らしい。ウンディクラン寮の恥さらしだわ」
「それなのに実習では後方支援に徹するなんて何様よ」
「偶然、レクソス君とパーティーを組めたからって調子に乗りすぎじゃん」
今日も酷い言われようだけど、私には目標があるからこんな罵詈雑言に負けたりしない。
傷付かないと言えば嘘になるけど。
音も立てずにデュークの隣に移動した私は彼の扱う土属性魔法をまじまじと観察する。
相変わらず面白みのない魔法だけど、以前よりも精度が増している。
彼もまたレクソス達と同様に努力家なのだ。
「デューク、そろそろ学園に帰る時間よ」
「うおぉ!? いきなり出てくるな!」
「魔力感知の精度はまだまだね。常に地面から伝わる魔力の変化を気に留めておいて」
人には得手不得手があるのは当然だけど、魔王のパラメーターは巨大な正五角形であるべきだ。
デュークには彼らよりも強くなって貰わなければ……。
あれ、そうなるとレクソス達が負ける。逆にレクソス達を強くするとデュークが負ける。
うーむ、これは困った。
腕を組みながら一人唸る私の背後から草木を揺らす音が聞こえ、勢いよく魔物が飛び出した。
どの魔法で攻撃しようか、と考えていると彼の背中が私の視界を遮った。
「ティア!」
なぜ私の前に出たのだろう。
そんな疑問を抱きつつも、デュークは防御魔法を使用するから無傷だろうと軽く考えていた。
しかし、彼の生身の腕は魔物に噛みつかれ、血が滴り落ちる。
「バブル・クライシス!」
飛び散る鮮血に焦った私は思わず上位の水属性攻撃魔法を発動してしまい、魔物は体の内部から弾け散った。
「……チッ」
腕からの出血を止めるようにキツく握りしめるデュークの顔が痛みに歪む。
思ったよりも傷が深くて出血が止まらない。
「ヒーリング・キュア・リカバリー」
今の私が発動可能な最上位回復魔法を放つ。
これは文字通り、失った血液を回収して回復する魔法だ。ただしデメリットが存在する。
「デューク、大丈夫? 痛みは?」
「無い。それより、お前は!? 今のは魔力をほとんど使うやつだろ」
そうだった。彼は昔、この魔法を見たことがあるんだった。
そんな顔で見られるとどちらが怪我をしたのか分からないじゃない。
「危険を冒してまで私を庇うなんて――」
「馬鹿か! 危ないだろ!」
久しぶりにあだ名を呼ぶものだから嫌なことを思い出した。
過去に今の魔法を使ったのは今日と同じようにデュークが私の代わりに怪我をしたときだ。
魔法発動後、魔力枯渇で倒れてしまい、生死の境を彷徨っていた私を無傷の彼が背負って家まで送ってくれた。
「お前は自分の傷を癒やせないのだから、俺の魔力感知に文句を言ってないで気をつけろ。何かあってからでは遅いぞ」
そうやって正論を突き付けられると辛い。
これで彼に心配されて守ってもらったのは二回目になってしまった。あのときは何とも思わなかったけど、この年になるとなんだか恥ずかしい。
「……ありがと」
「ふん。こんな学外実習なんぞで倒れられては困る。お前は俺を魔王にしてくれるんだろ?」
仮にも幼馴染の夢を応援したくなるのは普通なことでしょう?
それなのに、なぜこんなにも顔が熱くなってしまうのだろう。
学園に戻ったらリーゼに聞いてみよう。
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