第11話 レベル上げは結構好き

「そんな小火ぼやでどうやって敵を焼くつもりですか? そんなそよ風ではゴミさえも吹き飛ばせませんよ?」


 訓練場に横たわるエレクシアとシュナイズは気を失っており、私の罵倒は聞こえていないかもしれない。

 少し離れた所にはレオンザート王子によって黒焦げにされたレクソスも横たわっている。 


「ヒーリング・シャワー」


 三人に降り注ぐのは慈愛の雨で、水属性魔法の中でも中位ランクの魔法だ。

 なんでも、広範囲の味方を同時に回復できる反面、回復量が低いとされているらしい。そんなことは初めから予測できたし、コントロールする術者の力量次第だろうとも思う。


「あんた、なんでそんなに強いのよ!?」

「私、強いですか?」


 以前、「強い」という表現は水属性魔法使いには適さないと言われた。

 優秀かそうでないかが判断基準になるらしいけど、このメインヒロインは私をなんだと思っているのだろうか。


「なんでオレの風属性魔法よりも殺傷力の高い魔法を使えるんだよ!?」

「やる気の差ではないでしょうか」


 この世界の住人は水を軽視している。

 水は素晴らしい化合物なのに、それを理解しようとしないから最弱の魔法なんて不名誉なことを言われているのだろう。

 なんてことを考えながら、五つの水球を自在に操り二人を追い回す。


「二人で協力して水球を破壊して下さい。それができるまで帰しません。たとえ夜中になってもです」


 逃げ回る二人が合流して何やら良からぬことを企んでいるようだった。どうせ私の魔力切れを狙っているのだろう。

 私、水属性魔法使いだよ?

 大気中に水分が存在する以上、私への魔力供給が途切れることはない。

 むしろ普段から自分の魔力は半分も使用していないのだから、たまには全力を出してみるのも悪くないかも。……なんてね。


 ひとしきり逃げ回った彼らは諦めたのか、真面目に水球を破壊する為の攻撃魔法を使用し始めた。

 最初からそうしておけばいいのに。

 無駄に体力と魔力を消費しているようではこの先、心許こころもとない。

 それを分からせてあげようとしたのだけど、流石に深夜二時まではやり過ぎだったかも。

 隣で雷属性の二人がピカピカしているものだから、つい時間の感覚が狂ってしまった。


 見事に火球と旋風で水球を破壊した二人は背中を預けあって眠っている。

 そんな彼らに微笑みかけ、ヒーリング・スフィアボムでHPとMPを完全回復させておいた。

 これで明日も元気に走り回れるわね。


「なかなかのサディストぶりだな、ウルティア・ナーヴウォール」

「そうでしょうか。まだ高レベルの魔物と対峙した訳ではありませんから、この程度は別に」


 レオンザート王子の顔が引き攣っている気がしなくもないが、夜だから気のせいだろう。


「貴様の魔力は無限か?」

「そんなことはありません。一度、魔力が枯渇するほどの魔法を使用したことがありますが、そのときは死ぬかと思いました」

「……おぉう。それでどうなった?」

「生死の境を彷徨った際に視界の端で何か光ったのです。最初は何か分かりませんでしたが、水の精霊だと名乗ってくれたので、私も名乗り返して助けて欲しいと頼みました」


 王子は食い気味に相槌を打つ。

 そんなにも人が死にかけた話に興味がおありなのだろうか。


「そしたら、自然界に存在する水から魔力を分けてくれるようになりまして。それ以来、魔力切れを起こしたことはありません」


 ポカンと口を開けるレオンザート王子はやがて愉快そうに笑いながら、ボルトグランデ寮へと帰って行った。



 * * *


「デュークが扱える土属性魔法って今はどんな感じ?」


 次々と繰り出される土属性魔法に驚いた、と言いたいところだけど、彼の扱う魔法はどれも類似していて面白味に欠ける。

 私が考案した鉱物含有ゴーレムが一番ユニークだと思う。頭部がツルツルのシルバーで実に美しいフォルムだわ。

 土属性魔法と言えば、砂や岩を投げたり、地割れさせたり、防御力を高めたりというイメージだけど、もっと柔軟な発想をしてみよう。


「例えば、地割れも一気に割るんじゃなくて、緩やかにドロドロさせるイメージでやってみて」


 素直に従うデュークがブツブツと詠唱しながら眉間に皺を寄せていく。

 普段と勝手が違い、魔力構築がイメージしにくいのだろう。

 やがて地面にヒビが入り、泥がボコボコと気泡を破裂させながら溢れてきた。

 更にそれらを黒や紫といった人に嫌悪感を抱かせる色に変えるように指示する。

 すると、闇魔法や『毒』属性にも見える謎の属性魔法になった。


「こんなことができるのか!?」


 珍しくはしゃいでいるのは結構なことだけど、まだまだ終わらせるつもりはない。

 たかが地面を割っただけで何を喜んでいるのだ。

 私の知っている魔王は重力を操作し、石化させられ、死者をも使役する。

 それらを全てマスターするまでは魔王襲名は夢のまた夢だろう。


 そのことを伝えるとデュークに貼り付けた偽物の顔面が真っ青に染まる。

 相当な汗を流しているので、彼が勝手にイービル・ファンデーションと名付けたメイク魔法を取ってあげた。

 その下に隠れている本当の顔はやはりレクソスに瓜二つだが扱う魔法は真逆だ。

 この二人にどのような因縁があるのか、ゲームでは語られていないので私には分からない。


 こうして一緒にいれば少しずつ話してくれるだろうか。

 そんなことを考えながら私は持ち上げた水の塊を彼の頭上に落とした。


 未来の魔王よ。

 これが重力魔法に近しい魔法ですよ。

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