第10話 勇者候補が率いるパーティー
学園の訓練場に呼び出された私の隣にはエレクシアとシュナイズもいる。
授業前の早朝にも関わらず、呼び出した本人だけは元気いっぱいだった。
「みんな、おはよう! 今日も良い天気だね。こうしてパーティーを組むことになったわけだし、改めて自己紹介をしようじゃないか」
「別にいいけど。なにもこんなに早くなくても」
「そうだぜ。二度寝した瞬間に雷まで落としやがって」
「……眠いのだけれど」
メイクに時間がかかるから早朝は止めて欲しい。
朝起きて、全く違う顔の女が出てきたら嫌でしょ?
「同じクラスだから知ってると思うけど、ボクはレクソス。ボルトグランデ寮所属の雷属性魔法使いだ。寮に戻ってもレオンザート殿下しかいないから、息が詰まっちゃうのが最近の悩みかな」
無礼なことをサラッと言ってのける勇者候補生は常に笑みを絶やさない。
そこが女生徒に人気なポイントらしい。
「ボクの夢は本物の勇者になることだ。だから今回の魔王討伐を失敗するわけにはいかない。レオンザート殿下には悪いけど、ここで一気に引き離してボクが勇者になる。自分勝手で申し訳ないけど、みんなにも力を貸してほしい」
一見すると完璧超人のような人でも人間くさい部分があるんだな、と感想を抱きながら寝ぼけ
勇者候補となる生徒はグランチャリオ魔法学園への入学が確約されているが、毎年候補生がいるわけではない。
レクソスが入学するまではレオンザート王子だけがボルトグランデ寮に入寮し、広大な寮を独り占めしていたらしい。
「あたしはエレクシア。サラマリオス寮に入寮した火属性魔法使いよ。射撃魔法が苦手で打撃魔法が得意。パーティーの中ではアタッカーになると思うからよろしく。悩みは特にないわ」
誰もが知っているメインヒロインは物騒なハンマーを持って戦う珍しいタイプだけど、そこが良いと言うゲームファンも多かったと記憶している。
ゲームのシステムが適応されるのであれば、属性魔法の優劣では私の方が優位ということになる。
「オレはあの実技授業で訓練用の騎士甲冑に傷をつけた唯一の男だ。お前は知らないだろうが、オレはあのゴーレムにも一撃喰らわせているぞ」
そんなドヤ顔をされても困る。なぜそんなに私を目の敵にするのかな。
巨大な鎌を持つ風属性魔法使いのシュナイズはただのモブキャラだ。これから他の魔女と出会い、パーティー編成を行うのであれば真っ先に切り捨てられるだろう。
それ以上は何も語ることはない、と言うように腕組みするシュナイズを横目にレクソスが私に目配せする。
「私はウンディクラン寮のウルティアと申します。あの実技授業で訓練用の騎士甲冑に傷をつけた唯一の女です」
「てめぇは相変わらず嫌味な女だな!」
シュナイズをなだめるレクソスの隣でエレクシアが笑っている。
あまり仲良くなるつもりはないけど、彼女とは話が合いそうな気がする。
「私は学園襲撃のときは王宮にいたので皆さんと違ってなにか功績を挙げた訳ではありません。役に立たないと判断された場合はすぐにパーティーから追放して下さい」
「そんなに謙遜しなくてもいいじゃないか」
「あんたも攻撃できる訳だし、このパーティーって防御力ゼロじゃない!?」
「攻撃は最大の防御だ!」
私はオールラウンダーだから、レクソスが私をどう使うかでその実力を測るとしよう。
話し合いの結果、アタッカー三人でヒーラーが一人、アタッカー三人でタンク一人、アタッカー四人という三つのフォーメーションが完成した。
どう見ても私の負担が大きいけど、誰もそれを言い出してくれないのは既に絶大な信頼を得ているからか、ただのいじめか。
どちらにしても特に苦には感じないので承諾しよう。
「初めての実技授業では一悶着あったメンバーだけど、案外良いパーティーなのかもしれないね。これから楽しくなりそうだ」
「仲良くなるのはいいけど、そろそろ授業が始まるわよ」
「このままサボってどっか行こうぜ。なんならダンジョンで誰が一番魔物を狩れるか勝負しようぜ」
「いいですね。レベル上げにもなりますし、今すぐにでも行きましょう」
面白くない座学を聞くくらいなら、内申点が下がっても彼らのレベルを上げたい。
意外にもレクソスは乗り気だったのでエレクシアを三人で誘惑して一日中ダンジョンに潜った。
結局、私が一番多くの魔物を倒して経験値を彼らに分け与えた。
シュナイズは嫌がるかと思ったけど、文句を言いながらも経験値を受け取っていたから自分の弱さを少しは認めているのだろう。
これで私も教育しやすくなるというものだ。
「ふふん。明日からの訓練が楽しみですね」
「マジでお前のその口癖、嫌いだわ」
学園に戻ると担任教師が鬼の形相で待ち構えていたので、霧の魔法で逃げるとしよう。
では、諸君、お先に失礼しますね。
レベルが上がるとこういうこともできるようになるから頑張れ、というメッセージを込めつつ一足先に寮へと戻り、何食わぬ顔で夕食をいただいた。
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