第9話 教え子は同級生と幼馴染
グランチャリオ魔法学園と王宮の同時襲撃事件の翌日、またしても女王陛下に呼び出された。
今回は私一人ではなく、勇者候補生のレクソス、メインヒロインのエレクシア、モブ風属性魔法使いのシュナイズも一緒である。
学園側に現れたゴーレムはレオンザート王子の雷属性魔法で撃退したと聞いたけど、その活躍に加勢したのが私の隣で頭を下げる三名だったようだ。
私は王宮で女王陛下に回復魔法を施しただけで大きな功績を残した訳ではないのだけれど、なぜ一緒に呼ばれたんだろ。
「昨日の一件の首謀者はまだ特定できていないようですが、ここに集まった皆の尽力により脅威は去ったと言えるでしょう。我が子への助力、心から感謝します」
「み、身に余る光栄です」
頭を下げた女王陛下に謁見の間がどよめく。
彼女もまた親ということなのだろう。
動揺しつつも四人で同時に深々と頭を下げた。
「あの特殊なゴーレムの詳細についても調査中ですが、随分と硬かったと聞いています。一撃与えるだけでも苦労したことでしょう。それを撃退した貴方達に魔王討伐をお願いしたいのです」
急展開に思考が追いついていないのは私だけなのか。
他の三人とレオンザート王子、謁見の間の壁際に控える者達から異論の声は上がらない。
このままでは私まで魔王討伐のパーティーに組み込まれてしまう。私は監視役なので勇者パーティーに同行したくはないのだけれど……。
いや、これが最も効率良く監視できるという異世界からのご配慮なのかしら。
しかし、考えてみると実にアンバランスなパーティーである。
雷属性が二人に、火、風、水属性が一人ずつだと攻撃に特化し過ぎて、この面子で誰が防御の役割を担うというのか。
「レオンザート殿下もご一緒していただけるのでしょうか」
「そういう訳にはいきません。いつ学園が襲われるか分からないのでレオンザートには守りを任せます。この王宮が襲撃された場合も転移魔法で駆けつけてくれることでしょう」
ただ自分の子供を敵地に送り込みたくないだけではないか、と愚考してしまったけど、レオンザート王子なしでも強力なパーティーに変わりはないだろう。
勝手に話が進むので女王陛下には伝えられなかったけど、今この世界に魔王はいないのですよ。
私達は誰と戦う旅に出ると言うのでしょうか。
「これから魔王討伐に力を貸してくれる魔女達に会いに行ってください。五人とも癖が強いと聞きますが、彼女達を仲間にしてこの国を救って下さい」
「分かりました。女王陛下のため、この国のために命をかけて戦います」
流石は勇者候補と言ったところか。私はそんなにあっさりと安請け合いして命をかけるなんてことは言えない。
そして、仲間を増やすのであればこの四人の誰かがパーティーから脱落することになるのだけど、そこまで理解しているのだろうか。
まぁ、そのときは真っ先に私が抜けて、早々に自称魔王に加勢するとしよう。
そうなった場合、私は氷属性魔法を扱う強敵だ。
今の彼らのレベルでは私はおろか、終盤の魔物ともまともには戦えないだろう。
この瞬間、これから敵となるであろう三人のレベルアップと好感度アップが当面の目標になった。
自分の敵を自分で育てるなんて、どんな育成ゲームだろう。
更に私はストーリーを進める上でもう一人育てなくてはならない人物がいる。
王宮から学園へ戻った私はすぐさまノームレス寮に向かって水で創りだした小鳥を飛ばした。
* * *
「それで、デュークはマジック・チェンジャーを手に入れて何をするつもりだったの?」
「土属性魔法を変換させる」
「そんなことは誰でも分かるわ。何属性の魔法に変換するつもりなの?」
突然の呼び出しにも関わらず、ものの数分でウンディクラン寮に忍び込んだデュークはキツく口を結び、返答しようとしない。
言えないのか、言いたくないのか。
「闇魔法でしょ」
「何故それを――」
「だと思った。いいこと、デューク。貴方はアイテムを使わなくても闇魔法を使えるかもしれないわ」
「なんだと!?」
大げさに立ち上がり、椅子を倒した彼の口元を水で覆って黙らせる。
夜中に密会していることがバレたら厄介だろう。なぜそれが分からないのか。
「土属性魔法は工夫すれば闇魔法に見立てることができると思う。実際の能力も限りなくそれに近づけられる筈だから、あとは貴方の努力次第よ」
書物を読む限り、この世界には基本の四属性魔法と貴重な雷属性魔法しか存在しない。
しかし、雷属性魔法を光魔法と認識している者も多いようだ。
それと同様に闇魔法を恐れている者達も少なからず存在する。ただし、この世界に闇魔法というものは存在しない。
仮にそれっぽいものがあるとするならば、それは土属性魔法だ。私はこの答えに辿り着くまでに十年もかかった。
氷属性魔法は一瞬で見つけられたのに情けない。
「デュークがよければ私が家庭教師になるけど?」
「……分かった。ウルティアに習おう」
私と彼が出会ったのは十歳の頃だ。
限りなく幼馴染のような関係だけど、今日まで彼が私に頭を下げたことは一度もなかった。
それ程までに成し遂げたいことがあるのだろう。
「デュークはなぜ魔王になりたいの?」
「それが母の遺言だからだ。俺は魔王になって勇者を倒す。その為に力を貸せ、ウルティア」
こうして勇者候補生を勇者に育て、自称魔王を魔王に育てる為に奮闘する日々が始まった。
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