第8話 謁見してから、癒やしてあげる
翌日、レオンザート王子と共に学園の中庭に立った私は差し出された手を取るか悩んでいた。
こんな公衆の面前で殿方と手を繋ぐなんて恐れ多い。なにより周囲の女性陣からの視線が痛い。
「臆することはない、転移魔法は一瞬だ」
違います。
殿下が思っていることとは異なる悩みを抱いているのです、とは言えずそっと手を重ねる。
雷属性魔法は転移魔法も使えるのか、と関心しながら瞬きを終えると目の前には豪華な椅子に座る初老の男性と気品のある女性がいた。
私は真っ赤な絨毯の上に立っており、レオンザート王子に促されるままに頭を下げる。
「ウルティア・ナーヴウォール、
男性ではなくその隣に座る女性が私に声をかける。
そういえば、女王陛下の命令で主人公が魔王を倒しに行くゲームだった。
「レオンザートから話を聞き、映像も見させていただきました。貴女は本当に水属性の攻撃魔法を使用したのですね」
素直に頷いて女王陛下の目を見つめ返す。
まさか入学して数日で女王陛下からお呼びが掛かるとは思ってもみなかった。
これで私は有名人となり表立って行動できなくなってしまった訳だ。
でも、だからこそ。
轟音と共に大地が揺れ、すぐさま女王陛下を守るように王宮魔導師達が動き出す。
「グランチャリオ魔法学園が何者かによって襲撃されています!」
「母上、我は転移魔法で学園に戻ります」
「早くお行きなさい」
私も一緒に学園に戻ると思っていたのだけど、そうではないようで謁見の間に一人取り残されてしまった。
「ナーヴウォールさん、貴女は自分が何をしたのか理解していますか?」
「いいえ。どういうことでしょうか」
「これまでの長い歴史の中で培われてきた常識を覆したのです。火・風・土・水属性魔法使いが互いの短所を補う為にパーティーを組み、魔物の討伐に繰り出していましたが、貴女は水属性魔法使いの短所を一人で克服してしまった。これは驚異的なことなのですよ」
そんなことを言われても、と困惑してしまう。
私には氷属性魔法を操れるようになるという目標があり、その為に努力をしたのだ。
と言っても一時間の練習で基本的なことを会得してしまったけれど。
水属性魔法で攻撃することがそんなにいけないのか、と素直に質問しようとしたとき足元が大きく揺れた。
自称魔王め、随分と派手にやっているな。
まさか、私がこの場にいることを忘れてはいないだろうな。
「直接ここを狙ってきたようね。ナーヴウォールさん、今日のお話はここまでにしましょう」
私も早くこの場から退散したい。瓦礫の下敷きになんてなりたくない。
帰宅手段を考えていると王宮全体が揺れて、屋根が崩落した。
それをやらかしたのは土属性魔法の代名詞といえるゴーレムだった。
崩れ落ちた屋根の隙間から顔を覗かせるゴーレムに魔導師や魔導騎士が恐怖に
「なんだあれ!? あんなゴーレム見たことないぞ!」
そのゴーレムは私が口添えをしたことで完成したものでデュークが使役している。
見た目は土だけで作る泥団子状ではなく、鉱物を思わせる頭部がシルバーに輝いていた。
ふぅん。昔よりも良くできてるじゃない。
この世界の人達は頭が固すぎると思う。もっと柔軟な発想で魔法を使用した方が面白いのに。
重そうなゴーレムの腕が女王陛下へと伸びる。
その行動を見て、ようやくデュークが王宮を襲撃した理由が分かった。
彼はレアアイテムである『マジック・チェンジャー』を欲しているのだ。
そのアイテム効果は属性魔法の変換。つまり、彼の土属性魔法を別の魔法に作り替えることができる素敵アイテムである。
ゴーレムの腕に斬り掛かるのは魔導騎士の中でも腕利きの男性のようだ。私が考案した魔法とどちらが優秀なのか気になって行く末を見届ける。
しかし、私の見込み違いだったようでゴーレムの腕は粉々に砕け散った。
ゴーレムの破片は女王陛下にも降り注ぎ、「これがデュークの狙いだったのかな」と深読みまでしてしまった。
降りかかる破片は風属性魔法によって吹き飛ばされたが女王陛下は既に傷を負っている。
これは誰の責任になるのだろうか。
私はそっと女王陛下の前に立ち、右手を向けた。
「貴様、女王陛下から離れろ!」
「ヒーリング・スフィアボム」
「無詠唱なんて――」
手のひらから飛び出した球体はゆっくりと女王陛下の腕にぶつかり、弾けた瞬間にはHP、MP共に全回復しているだろう。
「ナーヴウォールさん、その若さでここまでの力を手に入れる為にどれほどの時間をかけたのですか?」
「そうですね。十年ほどでしょうか」
私の全身から発生する霧に紛れて王宮を抜け出し、一人寂しく学園に向かって歩き始める。
囮のゴーレムが学園でも暴れたみたいだけど、寮の部屋がグチャグチャになっていなければ良いなぁ。
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