第7話 人付き合いにご用心
殿下と呼ばれたレオンザートはこの国の本物の王子だった。
このゲームの登場人物に王子はいなかった筈だ。
ということは王子でありながらプレイヤーに何の説明もされず、唯のモブキャラとして描かれていたことになる。それはいくらなんでも不憫過ぎるのではないだろうか。
そんなレオンザート王子は私を学園内の大聖堂に呼びつけ、学園長、ウンディクラン寮の寮長先生、担任教師立ち会いの元、質問攻めが始まった。
「ウルティアさん、どこで水属性の攻撃魔法を会得されたのですか?」
まさに水属性だと全身で表現しているような美しい女性寮長先生は、まだ私の返答を聞いてもいないのに若干顔を引き攣らせている。
レオンザート王子もいるし嘘はつけないだろう、と観念してありのままを答えることにした。
「本を読み漁り、五属性魔法全ての特徴を把握した上で他の属性魔法で行っていることを水属性魔法でも可能か試しただけです。別に攻撃魔法として使用するつもりはありませんでした」
「実際に見せていただけますか?」
指先に出現した水球は自由自在に飛び回り、誰にもぶつかることなく私の口の中に入っていく。
うん、今日も美味しい水を作り出せている。
口をあんぐりと開けている担任教師以外は真剣な表情で私を見ていた。
「この精度の水球を同時に三つ操ったのですか?」
「はい。あの騎士甲冑を壊す為には最低三つ必要だと判断しました。最大五つまでは操作可能です。幼少期はこの魔法を使って屋外で作業する庭師さんに飲み水を届けていました」
「そ、そうですか」
目尻を押える寮長先生が隣に座る学園長に目配せする。
しばしの沈黙が流れ、長い髭を撫でながら学園長が口を開いた。
「ウルティア嬢、君の両親はこの学園の卒業生で、どちらも優秀な風属性魔法使いじゃ。しかし、そんな二人の血が流れているからと言ってできる芸当ではない。このことは内密にした方がよいじゃろう。どうだろうか、レオンザート殿下」
「うむ。学園長がそう言うのであれば、と言いたいところだが既に母上から召喚命令が下っている。我は明日一番にウルティア・ナーヴウォールと共に帰郷することになりそうだ」
不穏な空気を察知し、逃げ出そうかと思ったがここは全寮制の学園で逃げ場はなく、実家に迷惑をかけるわけにもいかない。
仕方ない、命令に応じよう。
解放された私が寮に戻ると辺りはすっかり暗くなっていた。
遅めの夕食を摂る為に食堂へ向かい、一人寂しくフルコースの料理をいただく。
夢中になって手を動かしていると目の前の椅子が引かれ、偉そうにふんぞり返った男性が皿の上にあるローストビーフを奪っていった。
「お行儀が悪いわよ」
「攻撃魔法が使えたのか。なぜ隠していた」
「隠してたわけじゃないよ。聞かれなかったし、必要がなかったから使わなかっただけ。それに、デュークは私に水属性魔法に攻撃魔法はないって教えてくれなかった」
「そんな基本的なことは当然知っていると思うだろ。まさか水属性魔法使いのお前に攻撃魔法について学ばされるとは思ってもみなかった。明日、"アレ"をやる」
「そう。私はレオンザート王子の里帰りに同行することになったから」
「それは好都合だな」
それっぽく頷いているが、"アレ"について正しく理解しているわけではない。
今は協力関係にあるが実は彼にも隠していることは多い。
彼も自分の考えを教えてくれないのだから、私の全てを話す必要はないと思っている。
別に拗ねているわけではない。
そもそも、なぜこの学園にいるのだろう。自分で出向くのであれば私にスパイをさせる必要はないのではなかろうか。
そんなことを考えながら食後の紅茶を楽しんでいると自称魔王はいつの間にか消えていた。
「あ、いましたわ。ウルティア様、お昼はありがとうございました」
「大したことではありませんわ」
何度も頭を下げてくる二人の女生徒に満面の笑みで応える。
本当に大したことはしてないと思う。
ただ傷を癒やしただけで、あの程度は水属性魔法を扱う者にとっては基本的の基本だろう。
「回復魔法はもっと時間をかけるものだとお聞きしていましたので驚きました。それに全く傷痕も残っていなくて」
そうなの?
後方支援の水属性魔法使いが回復に時間をかけるなんて役立たず……ううん、努力不足ではないかしら。
彼女達は土属性魔法を扱うノームレス寮所属だけど、私との会話中に傲ることはなかった。
この世界では魔法に優劣がある為、各寮間でのトラブルが多いとさっき聞いた。
卒業後も続くようで人付き合いにも注意した方が良いと忠告されたばかりだ。
私はそういうことを気にするタイプではないのだけど、土属性魔法使いと火属性魔法使いには注意しよう。
そう考えると両親が風属性魔法使いでよかった。
風属性魔法と水属性魔法に優劣関係はないから親子喧嘩になっても問題ないだろう。
まぁ、あの両親であればそんなことになるとは思えないけど。
こうして一悶着あった初の実技授業は終わった。
明日はレオンザート王子と共にご両親に会いに行く予定ができてしまったので早々に眠るとしよう。
寮に戻って顔面偽装パックを取り外した私はリーゼと共に風呂に入り、一日の報告と愚痴をこぼすのだった。
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