吐く息の白さと
ケー/恵陽
吐く息の白さと
息をするのも苦しい。
冬が始まろうとしている。手はかじかんでくるし、吐く息は白くなってきた。バスを待つ間の短い時間が長く感じる。
ただそれは、寒さだけではない。と、自覚もあった。
少し前から一緒のバスを待つようになった大学生がいる。先にバス停で待つ私に、彼は毎朝おはようと声を掛けてくる。たった一言の挨拶が私の心を熱くする。
名前は知らない。
趣味も知らない。
何にも知らない。
他愛のない一言を交わすだけ。
バスを待つほんのわずかの時間のトキメキ。
この想いはきっと蕾が花開く前に終わるだろう。それでも私の中に確かに息づいている。
冬が終わる前に大学生との時間は終わるだろう。それでいいと思っている。けれども彼の眩しい顔だけは忘れられないだろう。
……ああ、息をするのも苦しい。
私は定刻通りにやってきたバスに乗り込むと、ひっそりと息を吐いた。
吐く息の白さと ケー/恵陽 @ke_yo_
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