第112話 World Processor Ⅱ

 何の映像も無く情報も無く、ただシェルターに避難しているだけだったら、恐怖に怯え、死の気配に震え、いつ終わるとも知れない絶望にさいなまれていた事だろう。

 そしてそれらは間違いなく「ソレ」の養分になる。


 だが逆に「ハンター達が空の上で闘っている」という事実は、非戦闘員の心の拠り所となり、絶望に負けない希望を芽吹かせていった。



 「目」の発現からどれだけの時間が経ったかは分からないが、「目」が消え始めた時に人々の恐怖は安堵に変わった。

 そして芽吹いた希望は大きく成長していった。



 一方で空の上にいたハンター達は、何者かが「目」を斬り裂いていくのを見ていた。


 自分達より遥か上空にいる、光と闇とそこから伸びる白金プラチナに輝く何か……。更にはその光と闇に追従するような虹色の余韻。

 その何者かは光のような速さで空を駆け巡り、カラフルなグラデーションに染め上げていく。恐怖と絶望を植え付けていた不気味な「目」から一変して、そこには色とりどりで鮮やかな希望に塗り替えられた空があった。



 空にいたハンター達はその光景から目が離せなかった。離すことが出来るハズもなかった。



「自分達では決して為し得なかった偉業を行っている者がいる」



 少女が「目」を斬り裂いていく光景を見た全てのハンターが、その偉業をその目に焼き付けていた。


 そしてそれが畏敬いけいの念の抱かずにはいられなかった。その光景を見たハンター達は、各々の最大級の敬礼を畏敬の念と共に贈り、その姿を見詰めていた。




 空から綺麗サッパリと「目」がくなった後でもハンター達は自国に戻ろうとはしなかった。ハンター達は気になっていたのだ。

 それは自分達の遥か上空ではまだ、何かが起こっている事実を知ったからだ。だから自分達の運命を握られている以上、離れたくなかった。

 見届けたかった。



 その境地に至ってしまった以上、そこには国の違いだろうが種族の違いだろうが、はたまた言語の違いだろうがそう言った全てのコトが一概に関係なくなっていた。だから例え有事の際は生命のり取りをする間柄であったとしても、今のこの状況に於いてだけは違っていた。



 ハンター達は「目」を斬り裂いた者が駆けていった方へ、例えそれが国境を越える事になっても追い掛けていった。


 追い掛けていく者は1人、また1人と増えていく。国を越え、種族を越え、言葉の壁すらをも越えた一団がそこに形成されていた。




 遥か彼方の上空で太陽にも匹敵する程の眩しい光が、大地を照らした時にはその集団は数千にも及んでいた。そして、その集団の1人1人がそらを見上げ、何が起きているのか分からないままに、何かから護ろうとしている者の安否を必死に祈っていた。



 そこにいる誰しもが、、1つの流星が一直線に流れていくのが見えた。

 それは昼間でも明るく光を放つ、箒星ほうきぼしのようでもあった。



「おい、何かが墜ちて来るぞ!」

「あれは人だ!宙で闘ってたハンターだ!」



 それはその中の1人のハンターが上げた声だった。そしてその声は瞬く間に伝播し、その場に居合わせた全員がその「墜ちてくる者」の元に向かって空を駆けていった。



 光と闇をその身に纏い白金プラチナ色の剣を携えて、虹色の余韻を残しながらの者は宙から墜ちて来たのである。



 その場にいたハンターは、墜ちていくその者が生きているのか死んでいるのかなんて分からない。

 だが、その者は彼等にとって、いな救世主である事に間違いは無い。

 だからこそ……だ。


 生きているのであれば、


 死んでいるのであれば、亡骸を丁重に葬る為にも



 ハンター達は必死に空を駆けていく。だが、引力に引かれ自由落下していく彼の者の速さには誰一人として追い付けない。


 更に、墜ちていく途中で、彼の者が纏っていた光と闇はかすかな余韻を残して消えていった。

 こうして目印すらも失った。



 だがハンター達は愕然とした。墜ちていく彼の者は、下から突如としてやって来た何者かに空中で拾われ、どこかへと消えていったのだから。




 こうしてハンター達は追い掛けるのを諦めた。そして、今まで見たものをしっかりと心に焼き付けて、自分達の国へと帰って行った。




 「3.15の禍殃アンノウン」に於ける被害は各国共に甚大だった。街は幾つも焼け野原となり、復興の目処は立っていなかった。

 人々が安心して暮らせる住居は、その数が余りにも足りていなかった。



 過去からの教訓があった事により、世界的に見れば前回惑星融合と比べたら被害者数はそこまで多くなかった。

 それでもトータルで見れば人的被害は、全世界で数百万人規模に達するのは疑う余地が無かった。


 そして、この「3.15の禍殃アンノウン」に於ける最大の被害はハンターの保有数を各国が大幅に減らした事だった……。




 神奈川国は「ソレ」のコトを事前に知っており、少女1人が出撃した事からハンター減少の被害は無かった。

 だが一方で、事情を知らない諸外国は緊急要請エマージェンシーを発令した為に、いたずらにハンター達を死地へと追いやる結果になったのである。



 それらが指し示す事は、魔獣被害の増加と、犯罪抑止力の低下だ。拠ってこれから数年の間、諸外国はハンター不足を余儀よぎ無くされる事になる。



 どこの国もハンター不足になった事から、戦争に発展するケースはまれだったが、犯罪多発と魔獣被害は後を絶たなくなっていった。




 一方でハンター不足がもたらしたのは、犯罪増加と魔獣被害だけでは無かった。


 各国は「ハンターが不足しているなら」と、国力を上げて新戦力の開発と新兵器の開発を進めていった。



 要はハンターに代わる戦力の生産に至る道か、戦力差をくつがえす程の兵器の開発へと続く道の、二択を迫られたのだ。

 または、その両方の選択肢を選ぶ道へとはしるかだった。



 そこで開発された物を巡り、再び戦火が巻き起こっていく事になるが、それはまだ少し先の話しである。

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