第108話 Invisible Vanquisher Ⅱ
「はぁ、はぁ、はぁ。やり辛いわね、まったく。でもあれは一体なに?バイザーでは発見出来ない状態で存在しているって事なの?そうしたら、
「ホンっトに解せないわッ!」
そうであるならば、巨体の全てが文字通り一瞬で消える事は不可能としか言えない。
更に「ソレ」は一度消えると、バイザーが発見するまで
それは
それならばバイザーが感知出来ない程に魔力が
そしてそれは消える時も同じだった。現れる時も消える時も全てが一瞬。全て
よって
その一方で、
故に少女は違和感を覚えていた。
「絶対に何かあるわね。
その後もバイザーに拠って幾度となく助けられ、少女は常にギリギリのタイミングで緊急回避に成功していく。だが「いつ襲ってくるか分からない」というこの状況下で少女は、極度の緊張感に見舞われていた。
更にはカウンターも試してはいるが掠りもしない。拠って緊張感だけでなくイライラも募っていた。
要するに
ぴぴぴぴぴっ
「まったくしつこいわねッ!そう何度も何度も同じ手ばっかって、手ぇッ!?」
ばちんっ
「きあぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁ」
「ぬふふふふ。やっと捕まえた。ワイの餌ぁ。ふはははは。いい悲鳴だ食欲が唆るぅ。でも一飲みはもったいない。ゆっくりと味わって味わって、味わい尽くして咀嚼して堪能しなきゃもったいないな。じゅるりっ」
何度目かのアラームの後、「ソレ」からの攻撃は先程までの触手に拠るモノから変わっていた。少女は今までの単調な攻撃に慣れてしまっていた事が災いして、対応が一瞬遅れてしまったのだ。それは両手で蚊を潰すような動きだった。
緊急回避が遅れた少女は、「ソレ」の掌が合わさった時に
「
だが実際のところ、今までの攻撃によって受けた傷は立ちどころに回復していたから「
従って傷を負えば痛みは、その身体を
更に付け加えると、物理作用が効かないと言っても軟体動物などの
その痛みは
そしてその光景に、その悲鳴に、その表情に「ソレ」は愉悦に浸り、気持ち悪い顔を更に気持ち悪く蕩けさせて恍惚としていたのである。
「アタシのか細い脚を蚊を叩くみたいに潰してくれちゃって、お、覚えておきなさいよッ!ぐっくぅぅぅぅ」
「——こ、この痛みは絶対に100万倍返しでも許してあげないんだからねッ!うっ、ううう」
「ぐっ!だから痛ったいってばッ!か弱い女の子には優しくしろって教わらなかったの?!」
「あぁ、もう、アンタに食べられたくなんかないし、穢されたくもないし、初めてをあげる気もないのにぃッ!くっ、離しなさいよ!だから痛いってば!!」
「ぐふふふふ。
不敵な笑みを浮かべたまま「ソレ」の、
度重なって襲ってくる激痛に耐えてでも少女は
「ソレ」は目の前にある「ご馳走」に異様に
「ちゃんと人の話しは聞きなさいって教わらなかったの?!もうッ!こうなったら背に腹は替えられないわッ!」
「デバイスオープン、精霊石ドリュアス、精霊石ノーム、精霊石スカディ、精霊石サラマンダー、精霊石アウラ、バーストッ!」
しゅごどんしゃきぼんざしゅッ
どごおぉぉおぉおん
「あぁ、ホントにヤんなっちゃう。いつからアタシはこんなに打たれ強くなったんだろ。これじゃまるで、アタシの方がドMじゃないっ!」
「——って、ウソでしょ?これでも効いてないのっ?」
少女はこの状況を打破する為に様々なシミュレートしていた。そして最後の手段を使わざるを得ない状況まで、逼迫させられていた。
それは精霊石のバーストである。
目の前で上位精霊石がバーストすれば、少女もただでは済まない。だが、剣を封じられ、拘束を解く事が出来ない現状では、それが1番手っ取り早い最大火力だった。
精霊石がバーストし、少女はその火力に穿かれ裂かれ抉られ刻まれ焼かれていった。それは目の前の「ソレ」も同条件だ。
だが「ソレ」に食べられたら一貫の終わりだが、精霊石からのダメージでは少女は死ぬコトはない。
ただ、非常に痛いだけだ。
それはもう、泣きたくなる程に痛くて痛くてどうしようもないだけだ。
だけど死ぬコトはない。
よって、「死ぬ事以外はかすり傷作戦」を少女は決行したのである。
一方で精霊石の爆発をまともに受けた「ソレ」は、何の影響も無かったワケではない。
ダメージは確かに累積していた。だがそんな事よりも今はただ、目の前の「ご馳走」に全てが集中していた事から気にならなかっただけだった。
要は「気にならない程のダメージだった」とも、言い換えられる。
よってご馳走に対する執念が見せた芸当と言い換えられるかもしれない。
「って、うわぁ、なに何ナニ?なんで、急に逆さまに?」
「にふふふ。決めた。やっぱり一飲みにしてやる」
ぐぱぁ
「えっ?!ちょっ、嘘でしょ?やめて止めてヤメテ離してッ!」
「ソレ」は精霊石など意に介す事なく両手を高々と上げると、コップの中身を飲み干すかのように手首を返していく。その為、少女は逆さ吊りのような格好になっており、一種の辱めを受けている様子だった。
この時にもしも少女がスカートを履いていたら、顔を真っ赤にして必死になって口汚く抗議しただろう事は間違いがないが、余談でしかない。
少女のその視界には触手の隙間から開けられた口が、垣間見えている。それは地獄の門が開き、門の中に引きずり込もうとしている感じにも見えるが気持ちの良いモンではない。
「まだ、まだ、まだッ!まだ何か方法はきっとある!諦めるなアタシ!諦めたらそこで終わりだッ!くそっ!くそっ!くそっ!」
「そうだッ!いっその事、口の中に精霊石をブチ込んでやろうかしら?」
きらッ
「えっ?アレって……まさか」
少女は拘束を解こうと必死だった。その為に「
バフを
治った骨は激しく
だがそんな中で逆さ吊りにされた事が幸いしたように、少女の首に掛かっていたネックレスが地球の微かな重力に従い、直下にいる「ソレ」に向かって落下していく様子が、少女の視界に入っていったのである。
少女はそのネックレスが落ちていく時にどんな気持ちだったのだろう。
その表情は「
または、そのどちらとも付かない表情だったかもしれないが、少女にはそんなコトを気にしている余裕は一切無かった。
ただ、落ちていくネックレスを見送っただけだったと言えるかもしれない。
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