第107話 Invisible Vanquisher Ⅰ

「これってまさかッ!ウソでしょっ?!まだ終わってないって言うの?」

「あの変な膜が残ってるってコトは、まだどっかで生きてるってコト?まっ、それならこの膜も、てってー的に破壊しちゃえばどっかに隠れてても出て来るしかなくなるわよね?」


 少女は眼下に広がっている「膜」を見付け最初は驚いていたが、心持ちを割り切ると剣を構えて「膜」に突き立て、半神フィジクス半魔キャンセラーの力で消滅させていく事にしたのである。




 「ソレ」の本体は周到に隠されている。「惑星ほし御子みこ」から身を守る為に必要不可欠なコトだ。


 如何に自分が強大な力を持とうとも「慢心は必ず身を滅ぼす」と言うコトを「悪行の人類史」から得ていたし、自分もその昔、味わったから尚更のコト弁えていた。拠って「ソレ」はこの次元に、自分自身をを選んだ。


 「ソレ」は過去に於いて「惑星ほし御子みこ」と闘った時に理解していたからだった。「惑星ほし御子みこ」は高位の次元に、決して出入り出来る存在ワケではないと。

 拠って「ソレ」は人間達が立ち入るコトが出来ない、高位の次元に身を隠していた。


 だが、分身体が破壊された現状で「ソレ」が取れる方針は変わるハメになる。



 安全策を重視して行動するのであれば、「目」から回収されてくるエネルギーだけを蓄えて、このまま次の機会を待つコトを選ぶ事が出来る。

 そしてそのまま「目」が破壊されるのであれば、自身は休眠する事を選ぶべきと言えるだろう。



 またはエネルギーを回収するコトすら止めて、「ソレ」が「膜」そのものを消していれば「全て終わった」と、少女は勘違いし剣を納めていた

 そうすれば無駄なエネルギー損失がなくなり、次の機会までの時間は更に短くなっただろう。



 休眠期間を経た後で「ソレ」が目覚めた時に、より安全にこの惑星を捕食出来たかもしれない。




 然しながら「ソレ」の本体は、自分の身体が少女から刺しつらぬかれた事。更にはその傷の癒える気配が微塵みじんも無かった事。

 それらの要因によって非常に焦っていた。



 本体を傷付けられた事に拠る屈辱感と、傷が癒えない事への焦燥感しょうそうかんから、「ソレ」は判断をあやまる事になったのである。




 結論として「ソレ」は高位の次元から、少女のいる3次元に転移する事を選択したのだった。

 それは守る為に隠れていたのに、それを諦めたという事と同義だ。




 少女は「膜」を次々に消滅させていった。それに伴って地上を襲っていた光は、次第に撃たれなくなった。

 こうして少女が「膜」の破壊を始めてから暫く時が経った頃には、全ての「膜」が破壊し尽くされる事になる。




 地球は一周約40000kmであり1500km/hで自転している。よってその場に立ち尽くして「膜」を取り除いていけば24時間後にはその一帯の「膜」は取り除ける計算になるが、それでは圧倒的に半神フィジクス半魔キャンセラーの時間が足りない。

 だからこそ周回軌道を逆に取り、バフで敏捷性AGIを最大まで上げ、光速付近の速度まで到達したコトで容易にローラー作戦は成功したと言える。




「じゃあ、終わったし帰るとしますかッ!でも……地球ってこんなに青かったんだ?実物をこの目で見るのじゃ、全っ然趣きが違うわね。まぁ、自力でここまで来られるんだから、これからはたまに見に来るのもアリかしら?」

「ってか、調子乗って周回軌道駆けてたけど、神奈川国ってどこかしら?ちゃんと帰れるかなぁ?」


ぴぴぴぴぴっ


「アラーム?何かが……来る?ここからでも感じる途轍とてつもない殺気、そして、威圧感プレッシャー……。ああぁ、やっぱりまだ、生きてたみたいね。はぁ……。また、あのきっしょいツラを拝まなきゃならないのかぁ……」


「ぬふふふ。探したぞ。こんな所にいたとはな」


「アタシは探さないで欲しかったわ。ってか、今回は?……まぁそれじゃあさっきのは、分身体ってトコかしら?まぁ、それもそうよね。陰でコソコソしてる陰湿なゲス野郎だから仕方ないわよね?」


「ぐふふふ。軽い挑発だな?そんなモノにワイが乗るとでも?」


「へぇ、意外と理性的なのね?そんな。本能のままに貪るだけのケダモノかと思ってたわ」


「にふふふふ。それについては否定はせぬ。先程の美味を再び味わう為に出て来てやったのだからなッ!」


ぶるるっ


「さっきも言ったけど、アンタなんかに、アタシの初めてをあげる気はさらッさらないのよッ!だからそんなゲスな目でこっち見んなッ!!アタシはアンタに視姦すらされたくないのよッ!」


「ぐふふふ。またいい声で哭いてもらえると食欲がいっそう増進するんだがなぁ?」


「ホントにゲスくてバケモノねッ!でもま、さっきまであんなに小さかったのに、随分と成長してくれちゃって……アタシとしては攻撃が当てやすいサイズで、実にわッ!」


 今、少女の目の前にいる「ソレ」は、先程まで「膜」の上でただニタニタと嗤っているだけたった「ソレドM」とは違う。見た目は「膜」の上にいた「ソレドM」と変わりが無いのだが、大きさは桁外けたはずれで、存在感やら威圧感やら殺気やらが先程までとは比較にならない。



 この空間では対比出来る比較対象か地球しかない事から、それと比較すればかなり小さいのは当たり前になるが、少女と比較すれば少女の10倍、いや、それ以上の巨体だと言える。

 先程の「ソレ」の背中にあった、二足翼竜種ワイバーンの翼だけが正確な大きさだったのかもしれない。



「さて、それじゃ、そろそろ美味しく食べさせてもらうッ!ハラが減ってハラが減って仕方がないのだ。だから、喰わせろーーーッ!!」


「何回言っても分かってくれないなぁ、はぁ……」


キッ


「だからお断りって言ってんでしょッ!!しつこい野郎はモテないって相場が決まってんのよッ!!」


「ぐらぁぁぁぁぁぁぁッ!」 / 「でやぁぁぁぁぁぁぁッ!」


ぶぉん


「えッ?!消えた?どこッ!?一体何が?」


ぴぴぴぴぴっ


「後ろッ?くっ!間に合えッ!」 / 「頂きまぁす!」


しゃしゃしゃッ


「なんとか緊急回避出来たけど、どんなカラクリよ?ってか、緊急回避成功してなかったら……ああぁ、ヤだヤだ。身体がゾワゾワするぅぅ」


 少女は確実に仕留めた気でいた。仮に仕留められ無くてもダメージは与えられるハズだと思っていた。

 だが、当たらなかった。


 何故ならば「ソレ」は剣閃が触れる前に忽然と消えたのだ。決して「避けた」のではない。

 視界からもバイザーからも文字通り「消えた」のだった。



 「ソレ」が再び現れたのは、先程まで反応しなかったバイザーがアラームを鳴らした直後で現れた場所は少女の背後。

 咄嗟に緊急回避を行ったが緊急回避に失敗していたら「ソレ」の触手に捕まっていただろう。



 こうして、それと同じ攻防は幾度となく繰り返されていった。

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