第109話 Twinkle Container Ⅰ
輝龍から貰った、「玉」がつけられたネックレスが重力に惹かれるように「ソレ」に向かって落ちていく。
意図せずに少女からこぼれ落ちたネックレスは、「ソレ」の前まで来ると突然光を放ち始めていったのである。
だが、それは
そして最終的には、少女ですら目も開けられない程にまで、輝きを放つに至ったのである。
当然ながら少女は余りの眩しさに目を開けていられなかった。手で顔面を覆い隠したとしてもその光は、手が創り出す
闇など一片の欠片すら認めないとでも言わんばかりの強烈な閃光に、少女は目を閉じる以外の選択肢を得られなかった。
一方でその「光」は、「ソレ」に対しては違う効果を
「ぐおぉぉぉぉぉおおぉおおおぉぉぉぉ!なんだこれは?一体ワイに何をしたぁ!」
「あ、なんか「ソレ」が叫んでるけど、アタシも何をしたか分からないのよねぇ」
ぶんぶんぶんッ
「っ?!えっ、えぇぇぇぇぇぇッ!なになになにッ?なんで、なんで?なんでアタシを
「ちょっとちょっとちょっと、目が開けられない状態でそんなに振り回されたら……酔う。うっぷ」
「ぐあぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁ、ヤメロやめろぉ!」
ぶんぶんぶんッ
「うっ。アタシもヤメテぇ。漏れちゃう、口から色んなのが出ちゃう。うっぷうっぷ」
「ソレ」は突然現れた光に、その身を
身体に
それは滑稽なダンスを踊っているようにも見えただろうが、その掌の中にいる少女は溜まったモンではない。
せめて目を開けるコトが出来れば多少は耐えられたかもしれないが、目を閉じてる状態で振り回されるのは、想定外を通り越して規格外に辛い。
拠っていくら乗り物酔いに強くても、
だが一方でそんな状況下に置かれながらも少女は、「ソレ」の拘束の
拠って少女は再度力を解放すると、
それは骨が折れようとも関節が外れようともお構い無しだ。しかも振り回されているので、気持ち悪くて気分は最悪だがそんなコトも言ってられない。
それこそ生命が掛かっているし、貞操の危機ですらあるのだ。悠長なコトを言っていられる余裕など、
だから身体を掌の中から抜く事だけに必死になっていた。
その甲斐もあって無事に掌から抜け出すと目を閉じたまま宙を駆けて、少しでも「ソレ」から離れていった。
無論のコトだが真っ直ぐ駆けるコトは出来ずに、フラフラになりながらだったと言うのは言うに及ばないだろう。
あれだけ振り回されたのだ。目の焦点は合わず、脳は揺さぶられ正常に機能していない。
それはもう既に物理作用が~などと言える状況ですらなかった。だから地面に立っていれば間違いなく泥酔したヨッパライのように、
少女の全ての身体の機能が回復するまで、
要は、「ソレ」が燃えているのを見たのだ。
だが不思議な事に「ソレ」は燃えていながらも、掌に捕まっていた時の少女は、熱を一切感じていなかった。故に、少女は目が開けられなかった為に、意味が分からないまま文字通り振り回されていただけだったのだ。
だが、理解出来れば
一方で「ソレ」は掌の中から少女が抜け出した事が分かっていた。だが、絶賛その身を灼かれている今となっては、追い掛ける事も出来なかった。
拠って少女がいなくなった為に自由になった両手を使い、身体を一生懸命に振り払うが何の意味も無かった。
少女はここに、空前絶後の
「我が手に集え、紅き炎よ。我が手に集え、蒼き水よ。我が手に集え、
「我が手に集いし大いなる力よ、
「これで終わりよ。心置きなく逝ってちょうだいッ!」
「
少女の指先に虹色の輝きが集まっていく。虹色の輝きはその姿を一条の矢へと変化させていく。
——そして少女は、心の中でその引き金を引いた。
ひゅんッ
「ッ!?なんだ、コレは?ワイの身体が壊されていく……だと?」
「そのままじわじわと、自分の身体が崩壊していくのを恐怖しながら見ていなさいッ!」
空前絶後の
そして、突き刺さった場所から崩壊が始まっていった。
「ソレ」は光に灼かれていた為に、
だが、それが命取りだったと言える。
そして、更に崩壊の侵食は進んでいく。
「このワイが恐怖?まさか、そんなバカなッ!ワイは恐怖の支配者だ。ワイは恐怖の捕食者だ。ワイは恐怖の体現者だ。それなのに、ワイが恐怖を?ぬえぇぇええぇぇぇい!このような光など痛くも痒くもない!気にもならぬッ!」
「今は……」
めりっめりめりっ
「えっ?!そんなッ!自分の身体を……引き裂いて……るの?」
「ソレ」は初めて恐怖を抱いた。いや、抱かされた。恐怖を与える側から、恐怖を抱く側に回った瞬間だった。
だがそれは即ち、自分のアイデンティティを失うのと同義であり、それを認めれば「ソレ」を「ソレ」足らしめている「概念」すら失う事になる。だからこそ、崩壊していく身体に自らの爪を立て、強引に切り裂き、切り離していった。
こうして、切り離された「ソレ」の胸から下は崩壊するよりも早く、黒い粒子となって余韻すら残さず消えていった。
「よくも、よくも、よくもやってくれたなッ!このままでは気が済まん。キサマは喰うだけでは飽き足らん。先ずはワイの中にある、この世全ての恐怖と絶望をその身に刻んでくれる!自ら進んで死を懇願するくらいの恐怖を味合わせてくれるッ!」
「へぇ、だいぶコンパクトになりながらもまだ動けるみたいね?でもってその威勢の良さは口先だけじゃ……無いわよね?でもま、そんな恐怖を味わうのはアンタだと思うけど?だからアタシがとっとと死にたくしてあげるッ!」
「でぇぇぇぇやあぁぁぁぁぁぁッ!」
「ふんッ!ふんふんふんふんッ!!」
ぶぉんぶぉぉぉぉぉんッ
「へぇ?もうアイツには消える力が残っていないみたいね?まぁそれ次第では戦術を見直さないといけないんだけど、このままゴリ押しでもなんとかなるかしら?」
「ふんッふんふんッ」
ぶぉんッぶぶぉんッ
「ってかなんて威力なのッ!ほぼ宇宙って言えるこの空間で、風を起こせるなんて」
「ふんふふんッ!」
「ソレ」が放っているのは
それ程までに人智を超えた拳打であり、直撃すれば即死させられるのは目に見えていたからだ。
だから、即時回復ですら効果があるか分からない。
そんなバクチを打って負けてしまったら目も当てられない。一瞬でオケラになってしまう。
だから躱すだけで精一杯だった。
しかし、躱すだけであれば次第に、速さに対して慣れていく事は出来ていた。
「結構、躱すのもキッツいわね。でも、躱すだけならなんとかなりそう。このまま躱しながら間合いに入れさえすればッ!」
「ソレ」の拳は少女の身長よりも大きい。当然の事ながら、
更に、凄まじいまでの拳圧を放つ拳打に拠って、突風と共に衝撃波が襲い掛かって来る。しかも連続でだ。
その拳打の連撃はまさしく「壁」のように、
「
「えっ?ウソでしょ?アタシのターンわッ?」
しゅごごごごご
「こうなりゃヤケよッ!!豪炎の型ぁッ!うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃああぁぁぁぁぁぁぁッ!」
ここで「ソレ」が放ったのはマナ由来の力……そう、魔術だ。そして少女に向かって来ているのは無数の刃であり、冷静に分析をしていれば
しかし少女は「ソレ」が放った無数の刃に、正直なところパニくってしまっていた。
だから本来であれば物理作用の
拠って出した対抗策は豪炎の型だった。
少女に迫っていた壁と刃に対して少女の「型」がぶつかり合い弾け、火花を散らし
だが威力と物量は圧倒的に「ソレ」が勝っていた。少女は気合と根性で豪炎の型を放っているが、精神論で物量に勝てる程、
よって、拮抗したかに見えた均衡は一瞬で崩れ去っていった。「壁」だけに注意を払っていればなんとかなっただろうが、完全な誤算としか言えない結果だった。
しゅぱあぁぁぁぁぁぁぁん
「ぐっ……はぁッ」
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