第103話 Planet Eroder Ⅲ

「それで、何か分かったワケ?」


「うん、分かったよ」


「へぇ、どんな?」


「それはモチロン。人間を辞めた事が分かったのさ!」


ばこんッ


「殴るわよッ!!」


「痛ったたたた。痛いじゃないかッ!殴ってから言うなよぉ」


ばこんッ


「ちゃんと殴るわよって言ったから殴ったわよ。これで満足?」


「もうッ!分かったコトを教えてあげないぞッ!」


「はぁぁ。どうせ、くっだらないコトでしょ?聞いたアタシがバカだったわよ」


 少女はウィルならば、何かしらの力の根源的なモノを掴めるかもと思っていた。だからこそ目を輝かせていたウィルに対して期待していたのだ。

 だが、少女は情報が何も得られなかったコトにしながら最上階へと向かっていった。




「ちぇっ。本当にのに、何もあんなに怒らなくたっていいじゃないかッ」

「それにしても興味深いなぁ。なんで、んだろ?」




「で、どうだったんだい?何か分かったのかい?」


「全く駄目ね。ドクはこの石が解析不可能って言ってたし、ウィルの方も。骨折り損のくたびれ儲けよ……。それよりも、何か動きは掴めた?あと、情報も!」


「アンタが下に行ってから、ここに帰ってくるまでの時間で調べられたコトは。だが、これ以上調べても、あんまりアテには出来ないかもしれないよ?」


 少女は「ソレ」について調べてもらう事にして依頼しておいたのだが、やはり何も見付かっていないようだった。



 マムは統合演算装置ミュステリオンにアクセスし、「ソレ」の探索をミュステリオンに依頼したり、アクセス権限内で情報を探したが満足出来る内容は1つもなかったのである。



「ミュステリオンが超高性能の演算装置であったとしても、3だ。流石に多重構造の多次元までは、調査は無理って事なのかねぇ?それに、さっきの話しを聞いた限りじゃ、この次元に潜んでいるのかも怪しいモンだしねぇ」


「うん、それもそうなのよねぇ」


「あと、そもそも「ソレ」ってのに対抗するのに、物理兵器は有効なのかい?それにミュステリオンでも情報を持ってないなら、どんな兵器を集めようとも全部バクチになっちまう気がするねぇ」


 マムは平気で凄い事を口走っていた。然しながら少女もその内容が理解出来なくは無いが、それに対して返す言葉を持ち合わせていなかった。

 何故なら門前の小僧が何を言っても説得力はないし、何かを閃く契機きっかけになるとも思わなかったからだ。



 しかし言うなれば、マムは少女からの依頼を頼まれるつもりはなかった。それは国家元首としての仕事があるからだ。

 拠って短時間であっても、時間は惜しいのだ。


 だが一方でマムがという事は、「ソレ」が本当に現れるならば、国だけでなく世界の存亡にも関わる事案だと認識せざるを得なかった。


 裏付けとして、少女は闇を纏った光にもなってみせた。流石にマムの前でその姿になれば何を言われるかある程度予想はついていたし、乙女心的には恥ずかしかったのだが仕方なかった。



 拠ってそれが功を奏して、マムは渋々ながら依頼を受けてくれたのだった。




 然しながら結局のところ、有用な情報を少女は得られなかった。少女の力の根源的な情報をウィルだけは得られていたが、それは喰い違いというか勘違いというか、すれ違いのようなとなって少女には渡らなかった。


 しかしそんなこんなで、「ソレ」に対する準備対応策は出来なくても、「ソレ」に対するコト準備施策は着々と進められていった。

 「猶予が無い」と言う言葉は信じられ、虚無の禍殃アンノウンが起きた時の避難経路や、国民に対する食糧などの支援物資などは集められていったのだ。




 そして、更に日々は流れていく。だがしかし運命の日は唐突にやって来た。

 それはノックもせずに突然開け放たれた扉のように唐突で、その開け放たれた扉の先には死神がいる様子だった。



 後に命名され後世にまで語り継がれていく事になる、「3.15の禍殃アンノウン」はこうして始まったのである。




 その日の神奈川国は、前日の夜から雨が降りしきっていた。そのと降る雨は、春の陽気から一転させ、大気を凍える程にまで冷え込ませていた。

 そんな雨が降り止んだのは昼前になった頃だった。



 太陽を完全に隠し切る程の厚い雲がどこかへと消えて、雨は止んだ。陽の光が見えた事で、凍えていた大気は熱を取り戻し始めていく。

 人々は暖かな陽射しによって憂鬱ゆううつな気分が、少しずつ晴れていくような気持ちになっていた。




 そんな何でもない1日のハズだった。そんな何でもないような、雨の昼下がりのコトだ。




 人々は目を疑った。いや、それを見た人々は自分の目を疑わざるを得なかった。


 何故ならば空に浮かぶ大きな「目」が自分を見ていたのだから。




 その「目」はこの惑星のどこにいても見える「目」だった。空が明るくても、暗くても見える「目」だった。


 朝でも昼でも夜でも構わず、晴れていようが曇っていようが、雨や雪が降っていようが、認識出来た。

 そんな摩訶不思議で奇妙で奇抜で気持ちの悪い目だったのである。



 その「目」に対する人々の認知は、夜になっていた地域や、雨が降っている地域では当然の事ながら遅くなった。拠って太陽が現れていた地域の方で発見が早かったのは当然のコトだ。


 そして「目」が一度ひとたび認知されれば、瞬く間に情報は伝播していった。拠って各国は緊急対応を迫られ、それがどんな時間帯であろうとも即時対応を余儀よぎ無くされたのである。



 それはまだ、記憶に残っている人も一定数いる「惑星融合」に対する「記憶の残滓ざんし」にというのも、モチロンの事ながらデカかった。




 世界中に張り巡らされた「目」は探し者をしていた。それは自分を倒し得る存在のコトだ。

 過去に散々苦しめられたコトから、早い段階で邪魔しないように始末しておきたかったと言える。


 そして、「目」はわらった。




「おや♪やっとお目覚めですか?おやおや♬随分と惰眠だみんむさぼってたみたいですが、それでもまだ足りないんですねぇ?まぁ♪それでも細工は流流りゅうりゅう。まぁまぁ♬後は仕上げを御覧ごろうじるとしますかねぇ。えぇ、モチロン高見からですがね。ふふふふふ、ふははははッ」





「ナニアレ?目?目なの?凄っごくんだけど!!」

「——ッ!あれ?なんかアタシのコト見てる?いやいやいやいや、そんなワケッ!?笑った……わね。あの目、アタシを見て笑ったわよね?」

「あ、そういう事かッ!アレが「ソレ」なのね……。セブンティーン!アタシここで降りるわッ。セブンティーンは屋敷に自力で戻ってもらえるかしら?」


「カシコマリマシタ、マスター」


 少女はキリクのお見舞いの為に病院に向かってる途中だった。拠って、フル装備を身に着けていない。

 セブンティーンに積んであるのは大剣グレートソードとハーフメイルだけだ。そして、自分が身に付けているのはデバイスとブーツのみという軽装と言える。その他の装飾品や銃火器は持っていない。


 だが、相手から見付かった以上、装備を屋敷に取りに帰る時間は無いかもしれない。それに相手の規模を考えれば、様々な装備品に意味があるのかも不明だった。

 拠ってセブンティーンから降りると、大剣グレートソードとハーフメイルだけを受け取りそのまま空を駆けていった。




 こうしてこれが、全世界を巻き込んだ人類の存亡をかけた虚無の禍殃アンノウンの始まりとなる。



「やってやろうじゃんかッ!この世界はアタシが護る。アンタなんかに壊させはしないッ!それに……キリクに会いに行く為に、ちゃんとリュウカが喜ぶ手土産も買ったのに、台無しにしてくれちゃったその分も合わせて、きっちりオトシマエつけてもらうわよッ!」

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