第90話 Faraway Storyteller Ⅱ

「アンタ、一体、今どこにいるんだいッ!!」


「えっ?!マム殿?斯様かように怒られてどうされたのだ?」


「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?アンタは風龍イルヴェントゲートを討伐しに行ったんじゃなかったのかい!?」


「あっ?!そうだ!それなのだ!その風龍イルヴェントなんとかが、どこにもいないのだ!そして此の身は迷子になってしまっているのだ!」


「なにが、「あっ?!」だい!とっくに風龍イルヴェントゲートの討伐は終わって、その躯は回収されたっていうのに、アンタはどこをほっつき歩いているんだいッ!」


「えっ?風龍は討伐し終わっているのか?」


「何で寝てもいないのに寝言を言っているんだいッ!風龍イルヴェントゲートは1人で勝手に行ったアイツが見事倒して、その躯と共に今さっき帰ってきたよ!」


「……」


「あたしゃてっきりアンタも一緒に行ってるとばっかり思ってたが、アイツが帰ってきて聞いてみたら、アンタは来てないって言うじゃないかッ!ちょっと、一体どうなっているんだいッ!」


「1人で?執事殿は一緒では無かったのか?そうだ、執事殿はどこに?大事な話しがあるんだ」


「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ?なんでハンターと一緒に執事が行くんだい?それに大事な話しがあるなら、アンタが自分で屋敷に行けばいいじゃないかッ!」


「い、いや、マム殿、そうではなくてだな……」


「じゃあ、なんだってんだいッ!いい加減におしッ!」


「いや、殿がここにいるんだ。見た所、かなりの重傷だ。早く病院へ連れて行かないと大変な状況かもしれない」


「なんだって?!アンタ、今、どこにいるんだい?」


「いや、その、あの、ここがどこだか此の身にも分からない。迷子なのだ」


がっしゃあぁぁぁぁん


「ん?どうなされたマム殿?何か凄い音が?」


「気にすんでないよ!で、そこはどこなんだい?」


「そ、それが此の身は無我夢中でアニベ市から東に飛んでいったのだが、途中で島を見付けてそこに降りたら、写真を持っている男が重傷で……」


「アニベ市から東ぃ?アニベ市から東には島なんて1っつも無いんだよッ!その前にアンタはハンターだろうがッ!デバイスを使えば位置情報は把握出来るだろうッ!」


「で、デバイスの使い方を、あまりよく知らないもので。申し訳ない」


がっしゃあぁぁぁぁん


「マム殿ッ?マム殿ッ?どうなされたマム殿?」


「そ、それでも、アンタはハンターかッ!まぁいい、それならこっちからアンタの居場所に対してサーチを掛ける。そこにはアンタとその男と、他に人はいるのかい?」


「う、うむ。男を助けてくれた島の住人が1人だけいる」


「分かった。救助の方法が決まったらまた連絡するから、決してそこから動くんじゃないよッ!」


がちゃッ つーつーつー


「はあぁぁぁぁぁ。全く、師匠が師匠なら、弟子も弟子だね。お互い揃いも揃ってバカな事をしてくれるッ。こっちはあきれて物が言えないよ、全く!」


ぴぴゅーぴゅーぴっぴぴー


「なんで口笛吹いて「あたしゃ知らないよ」みたいな顔してんだいッ!」


「ところで、マム大丈夫?2回くらいすっ転んでたけど?あんな派手に転ぶなんて、もう歳なんじゃない?」


「全く、揃いも揃って……だ・れ・の・せ・い・だ・と・?」


「あはははは。ほらほら、そんなに怒ると血圧上がるよ?どうどう。どうどう、はいよーシルバーなんちゃって。てへ」


「はあぁぁぁぁ。あたしゃ怒る気も失せたわ。そうやってのは、もっと年齢を弁えてやるモンだよ」


ぴきッ


「さて、冗談はおいといて……だ。神奈川国に帰って来て早々で申し訳無いが、今のクリスとの通話で大変な事が分かったよ」


「大変なコト?ド天然龍人族ドラゴニアの相手以上に大変なコトってあるの?」


「それは師弟そろってどっこいどっこいなんだが、茶化すんでないよッ!ふしゅるるるぅ」


「いや、別に茶化してはないけど?」


「まぁいい!先に教えといてやる。


がしゃんッ


「えっ?今なんて?えっ?えっ?本当に?ねぇ、本当に?キリクが生きているの?」


「アンタら家族の写真を持ってる人間が、キリク以外の人間じゃなければ……の話しだがね」


 少女はかすれるような声を上げマムに近寄ると、まるで小さな子供がすがり付くように、マムの膝下へと崩れ落ちて床を濡らしていた。




 クリスは北太平洋上に浮かぶ島にいる事が、クリスのデバイスの場所をサーチした結果判明した。然しながら、そこにいく為には当然の事ながら空から行くしか手段はない。海路を使う事も出来るが、それだと時間が掛かり過ぎるからだ。

 そして重傷者がいるとなれば、運ぶ為に空を飛ぶ事が出来るで行かなければならない。更にはその中に医師も同行させて、簡易的ながらも治療しながら帰ってくる事が検討されていった。



 ハンターが使うローポーションでは重傷の患者は当然の事ながら癒せない。

 仮に使ったとしても痛み止めくらいしか効果はない。


 また、回復術士ヒーラーのジョブを持つハンターも、錬金術士アルケミストのジョブを持つハンターも神奈川国には在籍していない。

 拠って回復魔術には頼れないし、高位のポーションも手に入れようがなかった。

 だから医師の同行は必要不可欠としか言えなかったのである。




 神奈川国からキリクの救助に向かう為に、マムはあちこちに掛け合った。その結果、高性能な自立型人工知能を搭載している、タンデムローター式の長距離無人航行が可能なヘリコプター、通称「ワダツミ」の確保に成功した。

 これは石油系燃料と魔術回路のハイブリッド方式で空を飛ぶ、大型輸送機だ。


 だが、それでも一回の給油も無しに、往復で10000kmを超える距離の飛行は物理的に不可能と言えた。

 因って、途中で神奈川国のエサヤ市から空中給油機を飛ばし空中で給油する作戦が立案されていった。



 ワダツミの中には様々な機材の他、医療用キットを抱えた医師や看護師に加えて、マムから直接依頼を受けたサポーターが十数名と、少女も乗り込んだ。

 こうして、20時間を超える連続飛行の末に、クリス達が待つ島にワダツミは到着する事が出来たのである。




 少女は島の上空でワダツミから降りると、ブーツに火を点し先に着陸地点の探索を行った。

 クリスの位置をバイザーに示し、その距離から最短で着陸出来る場所にワダツミを誘導すると、少女は真っ先にクリス達の待つ小屋に向かっていくのだった。

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