第74話 Unique Deceiver Ⅳ
「クリス!避けてッ!」
「
「ッ?!心得たッ!」
ひゅひゅひゅひゅひゅッ
少女は詠唱により、編み上げたマナに拠る魔術を放っていく。魔術は光の矢となって少女の掌から幾重にも放たれていった。
光の矢は戦線を離脱したクリスと擦れ違い、泣き別れている半身へと次々に刺さっていくが、影の動きが収まる事は無かった。
クリスは既に少女の元まで戻って来ている。拠って少女はもっと強い魔術を放つ事を決めた。
「我が手に集え、
「我は
「
「うぅぅぅりゃあぁぁぁぁぁッ!」
ごッ
だしゅッ
少女は急いで詠唱に拠ってマナを編んでいった。そして編み上がったマナに拠り、少女の手元に現れた
少女は、その矛を押し出すように
モチロンの事ながら、少女の放った「
然しながら、更に上位の概念である「
少女は矮小な
少女に拠って文字通り押し出された三叉の矛は、今まさに身体が繋がろうとしていた
そして
突き立った
堕天の封印が破壊され、解き放たれた
拠って、泣き別れた
ふぁさッ ふぁさッ ふぁさッ
柔らかい羽音が響いていく。こうして少女とクリスの前に「堕天」の封印を解かれた天使が舞い降りていったのである。
「
「
「これが
自らをサリエルと名乗った
声は高くなく低くもない中性的な音域で、透明なガラスのように透き通っている。
防具の類は纏っておらず、ゆったりとした服装はその中身が男性なのか女性なのかを、判別する機会すら与えてくれない様子だった。
一方で美しく煌めく眩いばかりの長髪はブロンドに輝いており、その輝きに負けじとエメラルドグリーンの瞳は、神秘的な輝きで魅せている。
髪型だけを見れば女性と言えるが、長髪の男性がいないワケではないので、これも判断材料にならない。
頭上には金色に輝く天使の輪が掲げられており、背中には大きい4枚の翼が生えていた。
「
「アタシ達は別にアナタに恩を売りたくて売ったワケじゃないから、気にしないでいいわよ?」
「さらばだ」
ふぁさッ
「うーん、なんか独特な感じで一方的だったわね……ま、いっか」
サリエルは最後まで一方的に話し、そして光の粒子になって消えていった。
辺りにはその余韻と天使の羽が1枚だけ残っていた。
「これで終わった……のか?結局、
「あの
「うむ、此の身にも確かにそう聞こえた」
「その名前は伝承に拠れば、主殺しの大罪を犯した
「流石はアルレ殿。博識だな」
「えっへん。まぁ、だから堕天の封印ってヤツで魂を強制的に魔石に変えられて、どこかに封印されてたんだと思う。でもその魔石を拾った何者かが、ただの
「そんなコトが出来るのか?」
「そもそも魔石は名のある魂を結晶化させた魔力の塊よ。そして意思がある魔力とも言われているわ。まぁ、でも堕天の封印なんてやり方が分からないから、どうやって魔石にするかは知らないけど……」
「だけどそんな強い力を持ってるから弱い魔獣なんかじゃ、一方的に魔石に拠って取り込まれてもおかしくないわッ」
少女と比べて各地の伝承や神話などを
今回の
少女はバイザーの光点が失くなった事を見た上で、結界モードでも残数が「0」になった事を確認していった。
ちなみに結界モードのカウントダウンは、残り30秒足らずしか残っていなかった。
こうして敷地全域と周辺を覆っていたスクエアは、解除されていく。
解除されても何も景色は変わらないが、空を飛び交う鳥が塔屋のアンテナで歌声を披露しながら羽休めをしていた。
空は少女の願いが通じたのか、未だに
現在時刻は15:00を過ぎた辺りで太陽は見えないが、だいぶ薄暗くなっている事から、意外と近くまで夕暮れが近付いて来ているのだろう。
少女は昨夜の寝不足と戦闘の高揚感から開放された結果、身体中からどっと疲れが出て来ていた。だがこれで帰れるワケではないので、疲れた身体に鞭打って戦後処理をする為に動き出していく。
急がなければ夕方になってしまう。そうなれば、エサを求めてこの敷地は魔獣に取り囲まれるかもしれなかった。
だから急がなければ自分の身が危険過ぎるのだ。
一方のクリスは、今回のところは少女の行っている戦後処理を見るだけにした。が、その前に火事になっている部屋の事など、スッカリスッパリサッパリ忘れていた事を思い出していたのだった。
「なぁ、アルレ殿?あの火事はどうすればいいのだ?」
「火事?あぁ、そういえば奥の部屋が
「デバイスオープン、精霊石ウンディーネ、ガンに宿れ」
「
ざっぱあぁぁぁぁ
「クリス分かった?火は水で消えるし、水が無ければ土でも消せる。それも無ければ気合で消すか、建物を破壊すれば消えるわッ。常識でしょッ!」
「あ、うむ、そ、それはそうだな……。あはははは。よし、あっちは見ないようにしておこう」
少女の
その後も少女は戦後処理を続けていく。戦後処理は大きく分けると4つだけだ。
・
・素材回収の依頼
・周辺被害状況の確認
・報告書の作成
——である。
その中で3番目は
少女は文章を書くのが面倒で面倒で、死ぬ程イヤだったからだ。
その事もあり今までは口頭での報告のみに徹していた。拠って報告書を未提出にしたり提出の催促には不貞寝したり、居留守を使ったりもした。
よもや、常習犯と言える。
だからこそ、今回の報告書はクリスに書かせようとしていた。
現場で出来る全ての処理を終えて屋敷に戻ると、辺りは完全に夜の帳が降りていた。
少女は汗を流し食事をした後で、クリスに報告書の書き方を指導していく。書き方の指導を終えた少女は、クリスに今回の報告書を書くように伝えたが、その目論見は
何故ならば、クリスはヒト種の文字が書けなかったからである。
それはもう、考えなくても分かる当然の事だった。言葉の壁がある以上、元々使っている言語が違うのは当然と言えよう。
なのでヒト種の文字が書けなくて当たり前である。
音で発する言語はデバイスが通訳してくれる。文字はデバイスが翻訳してくれるので書かれた文字を読む事も出来る。
だが当然の事ながら書くのは当の本人になる。デバイスは書いてくれない。
拠って仕方無く、少女は不本意ながらも自分で書く事にしたのだった。
「あーあ、なんかマムに騙されたなぁ。絶対に今頃ほくそ笑んでるんだろうなぁ。あぁ、想像したらなんか頭に来るわね……はぁ」
「それにしても、今日は何時になったら寝れるのかしら?2日連続で寝不足じゃ、お肌が荒れちゃうじゃない」
少女は自室の机に向かい、ペンを持ちながら呟いていた。クリスは部屋に戻り、多分もう寝ている事だろう。
少女は憂鬱な表情のまま、何も無い自室の天井を見上げていた。
外は今、空が大泣きに泣いており、大粒の雨を降らせている。それは少女の心の内を代弁していると言っても過言ではない光景だったと言えるだろう。
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