第75話 Nostalgic Facer Ⅰ

 これは狂獣化スリーシック小鬼種スゴブリン討伐後の話し。


 少女はクリスの見極めに、あれから2回程依頼クエストを受けていった。それは戦闘能力センス以外にクレーム対応やケンカの仲裁といった、コミュニケーションの適性やその他一切合切を見極める為だ。

 実際のところ、公安の依頼クエストはそう言った案件が多く、討伐依頼クエストは意外にも少ないのである。

 逆にギルドでは討伐系の依頼クエストが大半を占めている。



 龍人族ドラゴニアの村とは異なる「生活スタイル」を送っている街の人々。単一種族ではなく、他種族の人々が住まう街という場所。

 拠って少女は「街に住まう人々との価値観や倫理りんり観の違い」と言う、それらの差異から来る「何か」を危惧きぐしていた。

 要は、クリスがと考えたのである。



 だが、多少は危なっかしい所が実際にあったが、取り上げるような特に大きな問題点は無かった。そして、そんな中でクリスがどうしようも無い事が1つだけあった。

 それが「報告書」だ。


 クリスは「報告書」だけはどうにもならなかった。そもそも、筆記文字は一朝一夕いっちょういっせきでなんとかなるような代物しろものでは無い。

 それは時間を見付けて爺が教えてくれているが、何ともならないモノはどうしようもない。



「その点はマムに交渉だなぁ」




「アンタ、龍人族ドラゴニアをバカにしてんのかい?龍人族ドラゴニアだってちゃんと筆記文字を持ってる。それで報告書を書かせればいいだろうにッ!」


「えっ?でも、マム!そうしたら、報告書の意味が無くない?読めない報告書なんて……アレ?——デバイス使えば読めるじゃん。あはははは」


「全く、あたしゃ忙しいんだ!そんな下らない内容でイチイチ通話するんでないよッ!」


「そ、それじゃ、アタシの今までの苦労はなんだったのよッ!?クリスの代わりにアタシが苦労して書いた報告書は?眠い目をこすって書き上げたあの苦労は?」


「逆ギレかい?まぁ、アレはアレで読むに耐えない内容だったよ。一応そのままスルーしといたけどね」


「アタシが睡眠時間を削って書いた報告書は?寝る間も惜しんで書いたのに?褒めてすらくれないの?」


「まぁ、これにりたら、日頃からちゃんと真面目に書くんだねッ!日頃からちゃんと書いてればイザって時に困らないモンだッ!」

「じゃあ、切るよッ!」


がちゃっ

つーつーつー


 少女はクリスがこのままでは報告書が書けないばかりに、ハンターになれなくなる事を危惧していた。そこでマムに交渉しようとしたのだが、完全に敗北したと言える。




 斯くして、クリスの「見極め」は無事に終了した。晴れて正式にハンターライセンスの授与が行われ、クリスは少女の屋敷を出ていく事になった。


 それを1番惜しがっていたのは、サラとレミの2人だ。サラとレミは積極的にクリスに対して話し掛けていた。そして、クリスもまた2人とよく会話をして、面倒をみていたのだ。

 傍目はためには歳の離れた仲の良い姉妹のようだった。



 爺はクリスの出立の日、クリスに装備品を進呈しんていした。屋敷の地下に眠る装備品の数々の中で、クリスが着用出来る物を集め、新たにドク監修の元に魔改造されて新調された装備品達だ。

 更には、少女が昔使っていたSMGサブマシンガンのマイクロウージーもドク監修の元に魔改造され、一緒に進呈された。


 その契機きっかけとなったのが、小鬼種ゴブリン殲滅戦の報酬だった。



 あの殲滅戦で討伐した500匹を超える小鬼種ゴブリンの内、素材として取れたのは400匹を超えていた。


 その中でサリエルの魔石を核にしていた固有個体ユニークの素材こそ取れなかったが、将軍化中鬼種ゴブリンジェネラルが計5匹。SC化中鬼種ゴブリンメイジが1匹。

 種が計3匹。

 後は大量の中鬼種ホブゴブリン小鬼種ゴブリンの素材をゲット出来たのだ。


 ちなみに小鬼種ゴブリン系の素材は値が安いのだが、量が集まればそこそこの金額になる。

 更には上位亜種、中でも達のは売ったら意外と良いお値段になるし、素材としても中々に使い勝手が良い。


 拠ってそれらの上位亜種の素材は装備品への加護火属性耐性効果VIT・STR上昇を付与するのに使われた。

 残りの400匹を超える小鬼種ゴブリン及び中鬼種ホブゴブリンの素材達は全て銃の弾薬に加工された。そして少女はそれらを、クリスに全て進呈する事にしたのだった。


 だが、弾薬だけあっても意味が無いので、銃撃の練習用にマイクロウージーも一緒に渡す事にした。クリスは当然の事ながら受け取ろうとしなかったが、少女は強引に受け取らせたのである。



 それら一式全てを持って、クリスは公安の報酬の一環である、「宿舎」へと引っ越していった。ある程度はデバイスの略式虚理空間アイテムボックスに収納し、入らないモノは背中に背負っていた。

 サラとレミの2人はクリスの姿が見えなくなるまで手を振っており、別れを惜しみ大声で叫んでいた。



 これは余談だが、少女はクリスの装備品をドクに監修してもらった際に、炎龍ディオルギアの素材で爺がオーダーしていた大剣グレートソードディオルギアと炎龍の素材から造られたハーフメイルを受け取っている。

 更には、炎龍ディオルギアの素材で、より高性能になったブーツも受け取る事が出来ていた。


 受け取った品々に対して更に欲をかいた少女は、前々から言おうとして忘れてしまっていた自分のウージーとデバイスの更なるチューンナップをドクに要求していったのだ。その結果、ウージーはデバイスへの直結仕様となってマガジンが不要になった。

 要はデバイス内に残弾がある以上、連射が可能になった事を示している。



 デバイスはその調整の他に新たなASPをインストールし、その設定もドクに行って貰った。それら装備品の新調やチューンナップがあった為に、小鬼種ゴブリンの素材で作った物が少女は「要らなかった」からクリスに「全てあげた」というワケでは決して無い。

 そんなワケは決して無いのです。そんなコトは決してありえません。

 これは少女の名誉に関わる大事なコトなので、3回言いました。

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