第69話 Mob Ruiner Ⅴ

 射手達は屋上のふちに沿って3列に横並びになり、下のエントランスを狙っていた。

 最初の狙撃で少女は、2列目と3列目で横並びになっている射手達を狙っていった。そして更には1撃ち抜いていったのである。

 それが示しているのは「屠られた仲間が左右にいる状況を作り出す事」であり、その結果「次は自分の番かもしれない」と恐慌状態になったと言える。



 恐慌状態になった結果、射手達はその場から勝手に撤退しようと必死だった。拠ってそのベクトルは変わったが、少女の撃ち抜く対象は変わらない。常に「1匹おき」に正確に抜いていた。

 それは仲間の死骸に足を取られて転んだ挙句に、踏みつけられるといった二次被害を目論んだからだ。

 そうやって更なる混乱状態を作り出していった。


 だが、クリスが上空から攻撃の体勢に変わった瞬間に少女は、撃ち抜く対象を「1匹おき」から「将軍化中鬼種ゴブリンジェネラルに近い順」に変えている。

 将軍化中鬼種ゴブリンジェネラル気付き、「何か来る」と考え直す結論に結び付けたのである。



がががあぁぁぁぁぁぁあッ


「何なの、この声?えッ?!射手達が落ち着きを取り戻して……。将軍化中鬼種ゴブリンジェネラルの持つ能力スキルか何かなの?」

「数を減らし切れていない今の状態で、このまま恐慌状態が解かれたらクリスが危ないわッ!えぇい、仕方ない!大盤振る舞いよッ!」


かちゃッ


ダラララララララララララララッ


 将軍化中鬼種ゴブリンジェネラルは射手達に向けて咆えていた。その咆哮は、恐慌状態にあった射手達の落ち着きを取り戻させたのだった。



 少女は突如として正気に戻った射手達を見て、驚きを隠し切れなかった。しかしクリスは既に攻撃体勢に入っている。今からでは攻撃キャンセルは間に合わないだろうし、例え間に合ったとしても無防備な状態になるのは目に見えていた。

 数を減らし切っていない将軍化中鬼種ゴブリンジェネラルに攻撃を強行しても、クリスが射抜かれる事に変わりはないだろう。


 少女は急いでブラックライフルのモードを、「SEMI」から「AUTO」に切り替えていった。更にはマガジンに入っている弾薬を射手達目掛けてフルバーストさせていく。

 そして撃ち尽くすとマガジンを変更おかわりして更にフルバーストを繰り返していったのである。



 結果、少女の残りのマガジンは2個、計60発まで減っていた。だが、フルバーストさせた甲斐もあって、屋上に残る残存兵力は将軍化中鬼種ゴブリンジェネラルを含めて3匹までその数を減らす事が出来たのだった。




 クリスは滑空し、斬り掛かる直前に将軍化中鬼種ゴブリンジェネラルの放った咆哮を聞いた。

 その咆哮で射手達の正気が取り戻されていくのが見えていた。



「くそッ、魔獣達が落ち着きを取り戻していく。このまま斬り付けると狙われる事になる。が、今さら方向転換しても気付かれるだけだ!」

「ならば今こそが最大のチャンスだ!ええい、「なるようになれ」だッ!」

凪閃静かに払うモノッ!」


しゅんッ


がぁ……ぁ


 クリスは長剣ロングソード龍征波動ドラゴニックオーラを纏わせ、まだ自分の存在に気付いていない将軍化中鬼種ゴブリンジェネラルの後方から、流れるような一閃を放っていった。



 軽い風斬り音が響いて、将軍化中鬼種ゴブリンジェネラルの耳へと入って来ていた。しかし当然の事ながら気付いていない将軍化中鬼種ゴブリンジェネラルは、自分の身に何が起こったのか分からなかった。

 そしてそのままうめき声をかすかに響かせると、その身に受け取った一閃で彼の上半身は横に滑り落ちて、泣き別れて行くのを止める事が出来なかったのである。


 こうして戦場に残ったのは指揮官を失った射手が2匹だけであり、クリスはそれらに速攻して難無く屋上の制圧を完了させていた。




 少女の姿をクリスは見付けられなかった。だが、少女が、黙って頭を下げると塔屋屋上の出入り口に向けて走り出した。



 クリスが塔屋に入っていくと、残りの4ヶ所の見張り役達は急に慌ただしくなったようだった。要するに役目が見張り役から増援に変更された様子と言える。

 その結果、それぞれの建物の中から外に出て来ていた。



固有個体ユニークの元に増援に向かう気かしら?まぁ、それは当然でしょうね、でも、簡単には行かせてあげないんだからッ!」

「それにしても……全弾使う気はなかったんだけどなぁ、はぁ」


ばしゅんッ ばしゅんッ ばしゅんッ


 少女はブラックライフルの設定を「AUTO」から「SEMI」に戻すと、外を歩いている小鬼種ゴブリンに対する狙撃スナイプを再開していった。




 クリスは塔屋から建物内に入り、階段を降りて行く。階段はᒪ字の縦と横の線がぶつかる所に位置していた。


 ここは最上階で踊り場には「7F」という文字が見えている。バイザーで確認するとこの階に大きな光点があるようだ。だが、そこに辿り着くまでには数多くの光点があるのもまた事実だった。



「此の身はどうするべきか?先に固有個体ユニークを倒せば残っている小鬼種ゴブリン達は瓦解するだろうな。だが、このまま進めば階下から増援が来た際に挟撃きょうげきを受ける事になる。先に階下から制圧するべきか?」

「しかし、そうすると階下に降りた後で上から挟撃されないとは言い切れない。うむむ、悩ましいな」


 クリスは悩んだ結果、階下へは行かずにそのまま固有個体ユニークのいる方へと進む事にした。そもそもの話し、この作戦はクリスが良いと思って決行したのに、悩ましくなったという事は、どこか抜けている証拠であると補足しておく。




 一方で少女は外に出て来た小鬼種ゴブリン達を全て屠る前に、当然のように残弾が尽きた。拠って場所を移動する事にした。

 然しながら流石にこれ以上の援護は、実践試験の試験官として来ている身なのではばかられたのも事実だった。



 少女は弾薬切れの為に壁の外周の見回りをする事にした。途中でガルムファミリア達とすれ違ったが、どの個体も今までに1回も戦闘には至っていない様子だ。まぁ、対象が引き籠もっているのは分かっていたから、当然と言えば当然なのだが……。



 然しながら、見回りのその途中に少女は「ソレ」を見付けたのである。見付けた以上、黙って見過ごす事が出来るハズもなく、少女は足早に「ソレ」を追い掛けていった。

 少女の掌の中のグリップはブラックライフルARから、ウージーSMGへと変わっていた。



ちゃきッ


「動くなッ!動くと撃つわッ!両手を上に上げてゆっくりとこちらを向きなさいッ」


「おや♪見つかってしまうなんて、可怪しいですねぇ。おやおや♬ワタクシとした事が失策ですねぇ。ところで、何も持ってませんけど、手を上げる必要ってあります?」


「アナタ、一体何者なの?動けば容赦なく撃つわ。だから、手を上げておいた方が得策よ?」


 少女が見付けたソレはフードを目深に被っており、顔は口元しか見えていない。中性的な声色だが恐らくは

 拠って本当にそれが合っているかは怪しい。



「まぁ♪一般人には見えませんかねぇ?まぁまぁ♬見て頂けると大変助かるのですがねぇ?おやおや♫どうでしょうねぇ?おやおやおやおや♫手を下げてしまいましょうねぇ」


ばららららッ


「おぉ♪遠慮しませんねぇ。おぉおぉ♬当たったら大変ですよ?一般人を巻き込んだら大事ですよ?」


「勝手に手を降ろしたのはアンタよッ!先に忠告はしておいたわ。次は当てるからね。と・こ・ろ・で、飽くまでも一般人だとしらばっくれるなら拘束させてもらうわよ?」

「多少痛い目を見てもらうけど、死なない程度には手加減してあげるから感謝してねッ!」


 少女は目の前の怪しさ大爆発な様子にウージーの銃口を降ろす気はなかった。そして、逃がすつもりも一切ない。

 確実に捕らえて何をしていたのか吐かせる腹積もりだった。知恵の働き過ぎる小鬼種ゴブリンと何かしらの関連があると、少女のハンターの勘がそう告げていたからだ。

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