第63話 Terrible Instructor Ⅳ
「お帰りなさいませ、お嬢様」 / 「お帰りなさいませ、マスター」 / 「おかえり、あるじさま」
「みんな、ただいま。大事な話しがあるから、広間に集まってもらえるかしら?」
「かしこまりました。それでは当方はお茶の用意を致します。2人とも手伝って頂けますか?」
「了解しました、執事長」 / 「お爺、分かった~。手伝う~」
「2人は明るくなったのだな?それに救世主様は好かれているのだな」
「クリス、ここでアタシのコトを救世主様って呼ばないでね?」
「な、何故だ?救世主様は救世主様だ」
「や・め・て・く・れ・る・わ・よ・ね・?」
「わ、わかった。なら、何と呼べばいい?」
「それはクリスに任せるけど?」
「それじゃあ、きゅッ?!」
「な・に・か・言・っ・た・か・し・ら・?」
「い、いや、それならば試験官殿?」
「固っ苦しいわね」
「そ、それじゃ、鬼教官殿?」
ばこんっ
「殴るわよ?いいかしら?クリスリーデさん」
「既に殴ってから言わないで欲しい。頭がバカになったらどうするつもりだ!そ、それにその名前は……くっ」
「クリスリーデ、少しは天然が治るといいわね?」
「天然?此の身は此の身限りの天然モノだが?そして、くっ……ころ」
「はぁ、で、何でも……って言ったら厄介な呼び方選びそうだから、どうしましょ?」
「お嬢様、お名前で呼ばれるのが恥ずかしいのでしたら、ミドルネームをお教えして差し上げても宜しいのではありませんか?あと、お茶の準備が整いましたので、そこで立ち話しではなく広間へどうぞ」
「ミドルネームか、その手があったわね。さすが、爺!クリス、いい?アタシのコトはアルレと呼んで」
「アルレ?うむ、分かった。アルレ殿と呼ばせてもらう」
「えぇ、いいわよ。じゃあ、纏まった所で広間に行きましょッ!爺達が首をながーくして待ってそうだから」
2人はこうして広間に向かう事が出来るようになった。2人が広間に入ると準備を終えていた3人は立って待っていたので、少女は3人にも着席を促していった。
「よく聞いておいてね。クリスは
「クリスだ。皆、此の身の事は既に知っていると思うが、今日からハンター見習いとしてアルレ殿の元で励ませて頂く事になった。宜しく頼む」
「アルレどの?」
「レミ、静かに!それはマスターのミドルネームです。今はクリス様が話しているのですから静かに聞きましょう!」
「あ、いやいや、サラ殿、此の身の話しはもうお終いだから気になさるな」
「クリス、それに2人もよく聞いてね」
「3人は獣人種だからそのバイザーがなければアタシの言葉は理解出来ないし、お互いの言葉も理解出来なくなるわ。まぁ、2人は前からバイザーを着けて生活しているからもう平気だと思うけど、クリスはバイザー初心者だから最初の内は慣れないと思うの」
「だから2人にはクリスがもしバイザーを着けていなければ、強制的に着けるように言っていいからね」
「かしこまりました、マスター」 / 「分かったの、あるじさま」
「クリスもいいかしら?誰かがバイザーを着けてるから自分はいいじゃなくて、ハンターを志すなら言葉の壁に屈しない為にも、自分から言葉の壁を越える事が必要よ」
「承知した。これからは四六時中着けるようにしよう」
「あっ、でも、お風呂の時とか寝る時は外していいからね。それで壊れたらシャレにならないから……。あと、時間がある時で構わないから、3人は爺にヒト種の言葉を教えてもらってね」
「かしこまりました、マスター。ご配慮ありがとうございます」 / 「お勉強苦手だけど頑張るよ、あるじさま」 / 「執事殿、ご指導ご鞭撻宜しく頼む」
「爺も忙しいと思うけど、大丈夫かしら?」
「えぇ、時間は作ればいくらでもありますので、ご心配には及びません。そのお役目、当方にお任せ下さい」
「それじゃあ、一通り決まった所で、爺!お昼ご飯の用意をお願い出来るかしら?今日はみんなでランチにしましょッ!」
「かしこまりました。ご用意致します」
「サラとレミの2人は、クリスに部屋を案内してもらえるかしら?それが終わったら爺の手伝いをしてあげてね」
「かしこまりました、マスター」 / 「分かった~。龍のおねぇちゃん、こっちだよ~」
「クリスは装備のままじゃご飯食べ辛いでしょ?着替え終わったら降りてきてご飯にしましょ」
少女は全員揃うまでの間にデバイスを眺めていた。クリスの見極めを任された手前、クリスに見合う
手元のガントレットを操作すると、
後はガントレットの画面を指で
「中々、クリス向けのクエストって無いのよねぇ……。ま、これならいっか」
「アルレ殿、何が「これならいい」んだ?」
「着替えてきたのね?今、クリスの実践試験用の……って、ぶふぉッ。ちょ、何その格好?!ねぇ、着替えて来いとは言ったけど、ま、まさかそのカッコで屋敷内をウロチョロするつもり?!」
「これは村で使っていた
「ちょッちょちょちょ。ちょぉっと待って!ダメ!ダメよ!ダメダメ!ダメ絶対!!」
「分かったわ、服はちょっと用意してもらうから、1回部屋に戻ってて!」
「わ、分かった。戻っていよう」
クリスの一張羅は、ほぼ半裸だった。クリスは魔獣の革を
敢えて
だがそんなコトよりサラやレミがいる手前、教育には非常に悪い。
だからこそ、ランチの準備が終わりつつあった爺に、急いで少女が着なくなった服を持ってきてもらう事にしたのだった。
爺に持って来てもらった服を受け取った少女は、自分の手でクリスの部屋へと持っていった。
こんこん
「クリス、入るわよ?」
「あぁ、アルレ殿。先程の一張羅だが、完全否定されたので違うのを着てみたのだが、これならば構わないだろうか?」
「はっきり言って全然ダメ。——はぁ。あのさ、これアタシのお古なんだけど、着てみてくれない?」
「おっ?アルレ殿の着ていた服か。此の身が貰ってもいいのか?」
「そのカッコでいられるよりは断然いいわ。それにアタシはもう着ない服だからクリスにあげるわ」
「それでは早速着てみるとしよう」
「ア、アルレ殿。こ、これでいいのだろうか?」
「はぁ……。想像は出来てたけど、ここまでとは思わなかったわ」
「アルレ殿、申し訳ないが胸が苦しいのだが、此の身は耐えるべきだろうか?」
ばこんッ
「い、痛いぞ、アルレ殿!一体どうなされた?此の身が何か失礼なコトを言ってしまったか?」
「いいわ、クリス。そのままいつもの装備に着替えて降りてきて。お腹空いたから先にランチにして、食べ終わったら出掛けましょ」
ばたんッ
「い、一体、此の身は何故怒られたのであろう?」
少女とクリスの体格差を見誤った少女の大誤算だった。少女は子供に間違われる背の低さも、慎ましげな胸のサイズもコンプレックスを抱える程に悩んでいる。
逆にクリスはそこら辺の男性より背が高く、出る所は嫌味な程にはっきりと出ている。
拠って少女が昔着ていたロングのワンピースは、少女的には今でも着られるのだが、クリスが着ると膝上の超ミニ丈ワンピースになっていた。更に服が無理矢理
小さい服の中で下着すら着けていない
そして服を
無論の事、少女が非常にイライラしていたのは言うまでもない。然しながら八つ当たりされたクリスは何故そうなったのか理解出来ないでいた。
それから間もなくして、5人での楽しいランチが始まったのだが、少女の表情はどこか浮かない様子であり、お腹が空いて美味しいハズの食事も喉を通りたがっていない様子だった。
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