第57話 Unscrupulous Tester Ⅲ

『どうだッ!空中戦なら此の身とて優雅に振る舞えるぞッ!今度はオマエ達が地を這う番だッ』


しゅばばっ


どおおぉぉん


 クリスは度重なる吐息ワイバーンブレスを華麗に躱し、飛び交う魔術を優雅に躱す。

 そしてすかさず距離を詰めると翼を狙って斬り付けていく。

 いや華麗さも優雅さも微塵もない上に、危ういながらギリギリで躱している程度なのだが、クリス視点ではそうなるらしいというのは余談である。



 クリスはそうやってカウンターみたいな攻撃を、幾度となく繰り返していった。

 その末に漸くにして1匹の二足翼竜種ワイバーンが墜とす事に成功したのだった。


 墜ちた二足翼竜種ワイバーンは地面に背を思いっきり叩き付けられ、転がるように体勢を直そうとしているがなかなか起き上がれない様子だった。



『でぇやあぁぁぁぁッ!』


ざしゅッ


『よしッ、あと2匹!この手はあまり使いたくないが背に腹は替えられないから仕方ないっ』


 クリスは先に墜ちた二足翼竜種ワイバーン長剣ロングソードの切っ先を向け雄叫びを上げながら、そのまま自由落下しトドメを刺す事に成功した。

 こうして3匹中の1匹を仕留めた事で少なからずクリスの士気は上がっていく。

 更に付け加えれば残りの2匹も翼に傷を負っており、安定性が失われつつあったのも事実だ。

 拠って一気に戦況を変える事をクリスは選んだ。



乱閃淫らに狂うモノッッッ!』


しゅばばぱはばばッ


ギギャッ / ギグッ


 クリスは龍征波動ドラゴニックオーラを龍鱗剣スライスナーヴァに集中させていった。

 そして幾重にも及ぶ光の刃をたわわに実った豊満な胸元ワガママバストを淫らに揺らしながら、宙を駆けさせたのである。


 こうして2匹のワイバーンは光の刃に因って切り裂かれ墜落していく事になる。そしてそれらは完全に地面に墜ちる前に、黒い霧となって消えていった。




 龍人族ドラゴニア龍征波動ドラゴニックオーラは、自分を強化する為のバフとしての使い方以外にも攻撃に役立たせる事が出来る。


 龍征波動ドラゴニックオーラ龍種ドラゴン息吹ドラゴンブレスを起源としている。拠って自身に強化バフを付ける事よりは、攻撃手段として使う方が息吹ドラゴンブレスに沿った使い方と言えるかもしれない。


 一方で一見万能そうに見える龍征波動ドラゴニックオーラだが、使い勝手の悪い部分も存在する。

 然しながら今は余談の為に置いておこう。



『こ、これでどうだ。それともまだ、何か来るのか?』

『こ、此の身としてはもうお腹いっぱいなのだが、続きはあってくれるなよ?』




「あのさ?」


「聞かないで」


「あのさ?」


「聞かないで」


「あのさ?」


ばこんッ


「殴るわよッ!聞かないでって言ってるでしょ!」


「そーゆーのは殴る前に言って欲しいけど……。ところであのコはワザとフラグ立ててるの?」


「聞かないで」


「天然って自覚してれば養殖なんでしょ?どっちだと思う?」


「あれで養殖だったら、世界中の養殖産業が怒ると思うわ」


「それにしてもさっきのワザは凄かったね!乱閃淫らに狂うモノって言ってたっけ?」


ちらッ


「な・あ・に・?」


「な、なんでもない……よ?うん。なんでもない」


ちらッ


「ワザの時の色気が凄かったなんてこれっぽっちも思ってないし、考えても口に出しては絶対に言わないよ!」


ちらッ


「どうせ、どうせ、どーぅおーぅせッ、アタシに色気なんざコレっぽっちもないですよーーーッだ!いいもんいいもんッ!ふんすっ」


「あれ?殴られると思ってたのに鉄拳制裁が来ない?!」


「にひひ。やっぱりそっちの趣味に目覚めてたのね?チェリーくん。ぶっ、ぷーくすくす」


「ッ?!」


「まっ、それにしてもあの二足翼竜種ワイバーンを短時間で倒し切るなんてね。思ってもみなかったわ」

「でもまぁ、普通のハンター試験なら文句無しに合格なんだろうけど、アタシが試験官をする以上はまだまだ終わってくれるなよ?ん?なんか違う?」

「これで終わったと思うなよ?」


「終わったと思ってくれるなよ?とか言いたいの?」


「そうそう、それッ!それよッ!」


「はぁ、悪役になりきれないんだったら最初からやったらダメだと思うんだよねぇ?」

「中途半端な悪役は滑稽でしかないよ?」


ぐさっ


「ウィっ、ウィルのクセに生意気だぞッ!」


ぼかすかぼかすかッ




 クリスの息は上がっていた。二足翼竜種ワイバーンを討伐し終えた後でも空中に留まり続け、そこで肩を大きく上下に揺らしながら深く呼吸をしていた。

 そしてその表情からは性悪妖精種コボルトの時にはあった余裕が、既に失くなっている様子がうかがえている。



 そして新手がここで登場する事になる。クリスは突如として湧いた異常な殺気を感じ取っていくのだった。

 数は1つだけだが殺気の強さは先程の二足翼竜種ワイバーンの比ではない。



『何だ、この殺気は?身体の芯からビリビリと痺れるようなこの感じ。どこかで……』

『い、一体何が来るというのだ?だが、これ程までの殺気の持ち主が相手ならこちらも全身全霊全力でいかねば闘いにすらなりそうもないなッ!』


龍征波動ドラゴニックオーラあぁぁぁぁぁぁッ!』


 クリスは敵がまだ見えぬ内から龍征波動ドラゴニックオーラを展開していく選択をした。

 固有能力ユニークスキルを発動させたクリスは光に包まれ、足の爪先から髪の毛の先端に至るまで黄金色に染まっていく。

 こうしてクリスには複数種の強力なバフが施され全ての能力値ステータスが爆発的に上昇していったのである。


 それは魔術で例えるならばエンチャントやレインフォースに分類される魔術ではなく、どちらかというと(イメージとしては)激化インテンスに近い。

 然しながら持続性が低い激化インテンスと比べると、どれだけ続くかは使と言える。

 そもそもの話しが龍征波動ドラゴニックオーラ激化インテンス以上の補正値が掛かるので、暴走状態に入らないギリギリくらいの全力で展開すれば、全ての能力値ステータスを個体の持つ潜在能力のギリギリ上限まで引き上げてくれる有意義な固有能力ユニークスキルなのだ。


 、最強の部類に入る補助系固有能力ユニークスキルと言えるだろう。

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