第58話 Unscrupulous Tester Ⅳ

 ソレは突然現れた。炎をその身にまとい、クリスの更に上空からクリスに向かって特攻して来ていた。

 そしてその姿を見たクリスは明らかに動揺していた。


 何故ならばその姿こそ、先程の二足翼竜種ワイバーンそのものであるのに対し、存在感は炎龍ディオルギア言っても過言ではなかったからだ。

 言い換えるならば小型の炎龍とも言える。



どごぉッ


『ぬぉっ!危なっ。ってかやはり二足翼竜種ワイバーンではないな』

『攻撃の威力もモーションも二足翼竜種ワイバーンとは違い過ぎる。やはり最初から「固有能力ユニークスキル」を出しておいて正解だった!』


グルルルルォ


『それにしても熱い!あの時の救世主様もこんな気分だったのだろうか?ってかこれ、どうやって倒せばいいのだ?』


 クリスは空中での緊急回避によって、辛うじての攻撃を躱すコトが出来た。然しながら躱された小型の炎龍の勢いは止まらず、そのまま地面に対して強烈な一撃を入れていた。


 大地はえぐれ、そこに生えていた草木はその身に纏っている炎に巻かれていく。

 クリスはどうすればいいのか分からなかったが、兎にも角にも攻撃しない事には先に進めないと考えると、今や大地の上にいる小型の炎龍に向かって攻撃を仕掛けていったのである。



墜閃舞い落ちるモノッ!』


グルォッ


『ッ?!』


 クリスが空中より放った斬撃の剣閃は小型の炎龍に向かって疾走はしっていく。

 対する小型の炎龍は迫り来る剣閃を見届けると、強く大地を蹴って再び空へと舞い上がり、すれ違うようにクリスの剣閃を躱していった。


 元々飛行能力が高い二足翼竜種ワイバーンではあるが、小型の炎龍のそれは異常とも言える。それは全力の龍征波動ドラゴニックオーラを纏ったクリスに匹敵する程の、飛行能力かそれ以上だったからだ。


 もしも仮に二足翼竜種の王ワイバーンロードがいるとすればこんな感じなのかもしれない。



 小型の炎龍はクリスより更にその上へと一気に駆け上がると、急速旋回Uターンしてクリスの背後を取っていた。

 空中戦に於いて背後を取られる事は、ひとえに不利になる事を意味している。そして付け加えるならば上を取られるのも同義である。

 それらの事を重々理解しているクリスの背後を、容易く奪った小型の炎龍の機動力は異常としか言えないだろう。



 背後に周り込んだ小型の炎龍は、容赦無く吐息ワイバーンブレスを吐いていく。クリスはその吐息ワイバーンブレスこそ躱したが、小型の炎龍から吐き続けられているは、まるでクリスの事を「どうしても焼きたい」と言ってるかのようにクリスを追いかけ回していった。



『ッく!メチャクチャだッ!何故吐息ワイバーンブレスが追っ掛けてくる?』

『それに何なのだ、コイツは?この理不尽な感じはまるであの炎龍を相手にしているようだ!しかも、あの炎龍よりも段違いに速いッ!こんな相手にどうやって勝てというのだ?速さも攻撃力も段違い過ぎるッ!』


グルルゥ


 クリスは迫り来る炎に追い掛け回されながら、必死に自分を追い詰めていた。そして半ば自暴自棄になっていた。

 その結果逃げる事しか出来ない自分に嫌気が差していた。



『そうか。どうやって勝つのかなんて誰かに聞く事じゃない!それに、勝たないといけないんだったら何がなんでも勝つしか無いんだッ!』

『ハンターになるんだッ、此の身は何がなんでも!』


 そんな中でクリスは気付いたと言える。自暴自棄になっていたからこそ気付けたのかもしれない。

 炎龍ディオルギアに拠って村が襲われた時から弱気になっていた自分。

 何かが起きると卑屈になっていた自分。昔はそんなんじゃなかった。

 だから自分を変える何かの契機きっかけを欲していたのだった。



『だからッ。だからッ、だからッ!もう逃げない。もう自分に負けない。こんな情けない自分とは金輪際お別れだッ!』


 クリスの気付きはクリスに意思を齎した。

 クリスの意思はクリスに決意を齎した。

 クリスの決意はクリスに光を齎した。

——その光はクリスに力を与えた。



龍閃覇を唱えるモノッ!』


きしゃあッ


グ、グルォ


 クリスが放った「それ」は迫って来ていた吐息ワイバーンブレス、斬り裂きながら打ち消していく。

 更にはそのまま小型の炎龍に対して、頭をもたげた蛇のように噛み付いていった。


 小型の炎龍はその蛇の噛み付きに対して、頭は緊急回避していた。従って頭という的を失った蛇は、そのままの勢いで左の翼に噛み付いていったのである。

 小型の炎龍は翼まで回避させる事が出来なかった事から、そのまま噛み付かれ綺麗サッパリ翼を根本から失う事になったのだった。


 翼を失った小型の炎龍は飛行能力を失い、当然のように地面に向かって吸い寄せられていく。

 そんな墜落していく小型の炎龍に対して、クリスは追撃の一手を加えていくのだった。



瞬閃目にも映らぬモノッ!』


しゃりんッ


グ、ググルェ


 クリスの追撃の一手。それに拠りクリスは爆発的に加速すると、墜落していく小型の炎龍の腹から背中へと斬り裂いて貫通していた。


 その追撃の一手は地面へと完全に墜落する前に、小型の炎龍を黒い霧に変えていったのである。



『やはり、今のはこれの力だったのか』

『流石は村に伝わる宝。親父殿、感謝する』


 クリスは「光龍こうりゅうお守りアミュレット」を豊満な胸元ワガママバストから取り出して、まじまじと見詰めていた。

 そのお守りアミュレットは、心なしか光を放っているようにも見えた。

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