第54話 Polite Newcomer Ⅴ
コンコン
「ふわあぁぁぁ。なぁにぃ?トレーニングルーム使うなら、勝手にどうぞ〜」
「トレーニングルームは使うんだけど今日はハンター試験で使うのよ」
「試験内容の設定と試験の確認があるから、ちょっと中に入っていいかしら?」
「えっ?ちょっと何をイッテルカワカラナイ」
「アナタ獣人種じゃないでしょ?言葉は理解出来てるわよね?」
「ほら、開けなさいッ!」
「だから、ダメなんだってばッ!」
「絶対に、だめだめだめだめーッ。ダメ絶対ッ!」
「あのさぁ、ウィル。子供みたいに、どうせ中を散らかしてるんでしょ?」
「そんなんでアタシは怒ったりチクったりしないわッ!だから中に入れないと困るから、開けてッ!」
ノックの音に反応して、ウィルは扉を少しだけ開けていた。その扉をウィルは焦っている様子で閉めようとしたのだが、少女はすかさず扉のスキマに手を入れると、扉を巡る攻防が勃発していった。
扉を死守しようと必死なウィルに対して、扉を開放しようとしている少女との間の熾烈な攻防は、研究者とハンターという歴然とした力の差によって遂に決着したのである。
「じゃ、お邪魔しまッえっ?!ええぇぇッ ///」
「ちょッ!ウィル!アンタ、なんてカッコしてるのよ!!」
「だから入ってきたらダメ絶対!!って言ったんだよぉ」
「ってか、ぷっくすくす。ウィルってば意外と
「ななな、何を言ってるんだ!!寝る時のカッコは常にこうなんだ!このカッコじゃなきゃ寝れないんだッ!」
「でもね、ウィル、そんな
「カレシの1人もいないクセによく言えるよそんなコト。耳まで真っ赤にして経験もないクセに」
ちゃきッかちゃッ
「ちょっと、ウィルくん?何か言ったかしらぁ?」
「ななななな、なんでもないから物騒なモン仕舞ってぇッ!!」
「じゃあ、アンタもその貧相な粗品を見せびらかしてないでいいから、とっとと仕舞いなさいッ!!」
「後でマムに言いつけてやるんだからッ!ふんすッ」
ウィルはさっき起こされるまで寝ていたのだ、その結果として寝間着姿だった。だが寝間着が
因ってこの問答である。
少女としては初めて見たモノがウィルのでは不服だったし、そっち方面に抵抗力がないので強がっていたが、本当のところはドギマギしていたと言うのは余談である。
「ちょっと僕は着替えるからこっち見ないでよ」
「ところでさっきハンター試験って言ってたよね?どんな設定にするつもり?」
「別にアンタのサービスシーンなんて誰得なワケ?見たくもないわよッ!」
「ってか、ハンター試験の内容って特に変えてないんでしょ?」
「いや、そうでもないよ?人それぞれ適性があるから、人によって応じたプログラムにしてあるけど?」
「へぇ、そうなんだ?」
「で、今回、試験受けるのはどんな人?適性は?
「試験官するの初めてだから知らなかったわ」
「今回の受験者はクリスよ。何かいいのありそう?」
「クリス?誰それ?僕の知ってる人?」
「ホンっっっトにアンタって研究バカで、人の顔と名前を覚えないわよねッ!」
「いやぁ、それほどでもぉ」
「褒めてないわよッ!」
「クリスよ、クリス。あの
「ああ、
ばこんッ
「痛っててて。何すんだよぉッ!」
「アンタが一言多いからでしょッ!」
「で、そのコがハンターになるの?」
「そっか、あの
「研究対象に対する記憶力だけはいいのよねぇ。はぁ」
「ちょっとどいてッ!」
ウィルは久々に興味が湧く研究対象の登場に、元気を取り戻した様子だった。拠って着替え終わって少女からコンソールを強制的に奪うと設定を整えていく。
「あれ?ウィル、そのデータってまさかッ!?もうデータベース化終わってるの?」
「うん、そだよ。これを徹夜でやってたから、さっきまで寝落ちしてたんだ」
「へぇ、やるわね、ウィル。ちょっとだけ見直したわッ!」
「えへへ、もっと褒めていいんだよ?ねぇねぇ。褒めて褒めて?」
ばこんッ
「スグ調子に乗らないッ!」
「痛っててて。これだから暴力女は」
キッ
「はーい、静かにしてまーす。お口にチャック」
少女はウィルが入力した設定を見て、正直な意見で「面白い」と思っていた。
何故ならそのデータはクリスとは因縁の相手のデータだった。ウィルはつい先日そのデータをマムから渡されたので、それを自分用に改造して他の魔獣に組み込んでいた。
まぁ実際のところ自分用と言っても、ウィルはハンターではないので闘う事は一切ない。
拠ってそれらは飽くまでも「自分用」という名の研究用コレクションだった。
「ちょっとウィル!今度、この設定をアタシにもやらせて。それなら、さっきの件は、マムには黙っといてあげる」
「おっけぇ!いいよ、それで手を打つよッ。取り引き成立だね」
少女とウィルがギャーギャーとジャレていた頃、クリスは絶賛放置プレイ中だった。
「トレーニングルーム内で待つように」と言われてから、どれくらいの時間が経った事だろう。ただ何かをするワケでもなく
『これから、あの「鬼ごっこ」が始まるのか……。果たして今回は逃げ切れるのだろうか……』
『それにしてもいつまで此の身は放置されるのだろう?救世主様は此の身の事など放っておいてどこかに行かれたのではあるまいな?』
『えー、テステス、クリス、聞こえる?』
『は、はひッ』
『ん?どしたの?声が変だけど?』
『だ、大丈夫だ問題ない』
『なんか問題しかなさそうだけど、ま、いっか。じゃあ、これから、ハンター採用特別国家資格試験の実技試験を行うわ。準備はいい?』
『すまない、救世主様。ま、待ってくれ』
「救世主様だって。笑っちゃうね」
ばこんッ
『で、クリスどうしたの?トイレに行きたいなら前もって行っといてくれないと。屋敷の時みたいに漏らさないでよ?』
『くぁwせdrftgyふじこlpッ!?///』
『も、漏らしてないッ!あの時はちょっとチビっただけだッ!!///』
『ってかなんでその事を知っている?!』
『まぁまぁ、そんなちっちゃな事はどうでもいいじゃない。むふふ』
『くっ、ころ』
『で、どうしたの?』
『ハッ!そうだった!聞きたいコトがある』
『実技試験とは、ここでするものなのか?こんな狭い場所でやるものなのか?それだと、この前みたいに逃げ切れる感じが全くしないのだが?』
『逃げ切る?何を言ってるの?実技試験は
『そうなのか?』
『えぇ。これからそこのトレーニングルーム内の形状を変えるわ』
『変わった後でその中には色々な魔獣達が現れるから、それを制限時間内に討伐する事。それが実技試験の内容よッ」
『現れる魔獣は本物ではないけど攻撃もしてくるし喰らえばダメージも負うわ。決して死にはしないけど、死ぬほど痛い事は確かよ』
『って、こんな説明で分かったかしら?ちなみに制限時間は60分ね。準備はいいかしら?』
『それならば準備はもう出来ている。始めてくれ』
クリスは自分が勘違いしていた事を理解し、戦闘が試験内容と知った事で表情には自信が戻っていた。クリスは腰に掛けてある
一方の少女はモニタールーム内でクリスの様子を見ながら、スタートキーを押すのであった。
「それじゃ頑張ってね、クリス」
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