第53話 Polite Newcomer Ⅳ

 少女はセブンティーンに乗り込んでいく。クリスも少女の後を追うようにセブンティーンの中に身を投じていった。


 2人が乗り込んだ事で、低いエグゾーストを刻みながらセブンティーンは動き出し、その様子を爺は玄関先で見送っていた。



「行ってらっしゃいませ、お嬢様」




 ステアリングを握り路面の感覚を捉えながら、少女は楽しそうにセブンティーンを疾走らせていく。重低音のエグゾーストは軽快に鳴っていて、そのビートは少女の心を踊らせていった。



『ねぇ、クリス。ハンターにんでしょ?』


『此の身でもなれるのか?』


『ハンターはね、「なれるか」「なれないか」じゃないのよ!』

『「なりたい」からなるの!』

『ハンターになって、困ってる人達を助けたい。悲しむ人を救いたいって気持ちが人をハンターにするのよ』


『そうか……。それならば、此の身はハンターに!』

『救世主様のような素晴らしいハンターになりたいッ!』


『ぶほぉッ。ちょっとクリス、さっきは聞き流したけど、その「救世主様」っていうのやめない?』


 ハンターになる為の心意気を改めて知った少女は、アクセルを更に踏み込んでいく。セブンティーンは加速し、重低音のエグゾーストは多少甲高く響いていた。

 ちなみに少女が目指している先は公安であり、クリスは行く場所をまだ知らない。



「クリスならきっと良いハンターになれそうね」




 少女は公安に向かう道中の車内で、クリスに対して正式名称・ハンター採用特別国家資格試験(略称・ハンター試験)のを説明していた。


 試験は大きく分けて2種類。


 1つ目は実技試験


 2つ目に実践試験


 学科や面接などの試験は無いが、ある程度の教養や適性は実践試験の中で試験官が見極める事になる……というのがだ。



 少女の口から出た「試験」という単語に、クリスは前の炎龍討伐戦の際に少女が行った「テスト」を思い出してしまい、頭から血の気が引いていく思いだった。


 「また、アレ鬼ごっこをやるのか?」とクリスは生きた心地がしなかったのである。

 こうして2人を乗せたセブンティーンは軽快なリズムのエグゾーストを奏で、そこまで重くなくなった重低音のビートを刻んで道路を疾走り抜けていった。




『さっ、着いたわよ。降りて降りて』


『ここは公安じゃないか?公安で試験を行うのか?』


『えぇ、そうよ』

『迷子にならないようにちゃんと付いてきてねッ』


『此の身はそんな子供ではないぞ……』


 公安に着いた2人は颯爽と建物の中へと入っていく。煽られたクリスは少女に「遅れまい」と必死に付いていった。

 一方でクリスの中には不安が渦巻いていたままだったが。



「行ッテラッシャイマセ」


 セブンティーンは2人を見送ると、先程までの軽快さを失った低いエグゾーストを鳴らしながら駐車場まで走っていった。




 少女は公安に入るとそのまま地下へと降りていく。クリスは「どこで試験をするのだ?」と少女に聞いたが、一言「いいから黙って付いてきて」と言われただけでそれ以降は何も話さなかったのだった。


 少女が先ず寄ったのはB1F。公安の鍛冶責任者であるドクの研究室ラボである。



「ドク、いる?」


かちゃかちゃかちゃかちゃ


「あぁん?」


かちゃ


「なんだ、嬢ちゃんか。嬢ちゃんの装備ならまだ出来てねぇから、引き取りに来ても渡せねぇぞ?」


「装備?あぁ、爺が言ってたヤツね?」

「でも今日はそっちじゃなくて、今から下でハンター試験を行うから、持ち込みの承認を取りたくて来たのよ」


かちゃかちゃかちゃ


「試験だぁ?嬢ちゃん、オメェが何の試験を受けるってぇ?……ってか、嬢ちゃんの装備で承認を得て無いモンなんざ、無ぇだろうが?」


かちゃッ


「あぁ、そっちのネエちゃんか。今日はソロぼっちじゃなかったんだな」


「アタシだって常に1人ソロってワケじゃないわよ。それに誰か来た時くらい顔を上げて確認したら?」

「危ないヤツとかだったら、どうするのよ?」


「はんッ。ここをどこだと思っていやがる!そんなヤローはここには来ねぇさッ!」

「逆にそんな時間あんなら工具の整備やら何かを作ってた方が有意義ってモンだろ?」


「そぉね、ドクはそーゆー人だったわね。言ったアタシがバカだったわ」


「殊勝な心掛けだな。普段からそれくらい殊勝なら……ってまぁ、いいか。で、そっちのネエちゃんは獣人種か?バイザー無しで話しが通じんのか?」


「残念ながらそれは無理よ」


「アレ着けんのヤなんだよな。どこ置いたっけかな?」


 いつもながらの少女とドクの応酬愛のある憎まれ口だった。だが2人が何を話しているのかはクリスには分からない。


 ドクは着けるのが嫌だと言っていたバイザーを探しにどこかへと行き、早々に見付けるとレトロな単眼鏡からバイザーに変えて少女達の前に戻ってきた。



『クリス、じゃあ装備品一式をドクに渡して貰える?』


『えっ?!』


『え?どしたの、クリス?』


『救世主様はこ、ここで此の身に全裸になれというのか?』


「嬢ちゃん、救世主様なのか?」


「うっさい、ドク!黙っててッ!」


「おぉ、怖えぇ怖えぇ。随分とおっかねぇ救世主様だ。くわばらくわばら」


キッ


『クリス、何を言ってるの?誰も全裸になれなんて言ってないわよ?』


『だが、装備一式と言ったではないか?』


『がーっはっはっはっ、コイツは面白ぇネエちゃんだ。いいぜ、全裸になってくれても。それはそれで眼福がんぷくってモンだ』


「ドクぅ?アンタ、アタシに喧嘩売ってるの?」


「おいおい、嬢ちゃん。嬢ちゃんにケンカなんざ売ったら生命が幾つあっても足りねぇだろうが?ってか嬢ちゃんは気にし過ぎなんだよ」

「オンナの価値は胸で決まるモンじゃねぇだろ?そこはシャキっとしな、シャキっと!ほら、シャンと胸張ってりゃ少しは大きく見えんだろ?」


ちゃきッかちゃッ


「い・い・ど・きょ・う・ね・ド~クゥゥゥ~」


「ま、まぁまぁ、どうどう。そんな物騒なモンSMGはおろしな。これから試験すんだろ?」


「アタシは馬かッ!!」


「嬢ちゃん相手にしてっと時間ばっか掛かってしゃーねぇな。ふぅ」

『まぁ、とは言ってもな、ネエちゃんが全裸マッパになろうと別にネエちゃんの全裸マッパには興味は無え』

『そればかりかネエちゃんが着ているモンに興味もねぇし、服に着られている中身にもホントのところは全然興味はねぇ』


『いや、何もそこまで完全否定されると此の身もヘコむと言うか傷付くというかだな、これでも身体には自信があってだな、脱いだら凄いんだぞ?』


『いや、だからな、そーゆー事を言ってんじゃねえって言ってんだ!』

「おい嬢ちゃん、コイツはコイツでメンドくせぇな」


「アタシは知ーらないッ。ぷいッ」


「これだからオンナ共は……。はぁ」

『話しを戻すが、こっちが知りてぇのはネエちゃんの武器と防具、弾薬があれば弾薬、要するにこれから試験をする際に使う物、使う可能性のある物の中に、この国で禁止している物品が無いかを確認させろって言ってるんだッ!』

「はぁ、なんでこんだけの説明でこんなに時間使って疲れてんだ……」


「自業自得じゃない?」


 ただでさえドクは勘違いされやすい。言い方がぶっきらぼうだったり、口が悪かったりするのが原因で本人もそれには

 だけども生まれ持った性格と、育って歪んだ結果として今がある為に、気付いているが

 更に言えば本人は隠しているが、女性に対して耐性が殆どない。それを隠す為の虚勢で口が悪くなっているのだった。



 一方でドクが投げた言の葉の中に、クリスはカチンときたりヘコまされたり忙しかった。更に少女とドクの2人だけで話している内容はサッパリだったが、見ていて楽しそうだとも思っていた。


 結果としてクリスは紆余曲折を経て、武器龍鱗剣防具魔獣皮革製防具一式更には光龍のお守りアミュレットを外してドクの前に置いていった。

 拠って全裸マッパにはならずに済んでいるが、インナーを着ていないので、結構ギリギリ見えそうで見えない感じだった。


 それらを見ているドクは、な奇声をあげた挙句に、な歓声を上げていたのでクリスは怖がっていた様子だった。

 ちなみに、ドクは装備品だけに視線を送っており、ギリギリな格好のクリスの事など一瞥もしなかったので、それはそれで傷付いたクリスだったが余談である。



『大丈夫だ、問題無ぇ。安心して使いな』


「ドクありがと~」


「あいよ~」


 ドクからのお墨付きをもらった少女は、装備を身に着け終わったクリスと共に今度は更に階下へと降りていった。



「それにしてもあの長剣ロングソードお守りアミュレットはなかなかのモンだったな」

「まさか、本当に伝説レジェンド級の素材を使ってるモンを見れるたぁ、長生きしてみるモンだな」

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