第52話 Polite Newcomer Ⅲ
これは数日前の出来事だ。少女はとある
その依頼の内容は
少女は
然しながら少女が向かった先はクリス達父娘の住居ではなく、長老達のいる
『お邪魔するわね』
『な、お主はッ!』 / 『おぉ、救世主様だ』
『救世主様?えっ?なんの事?』
『えっと、今回は
『だから言いたい事だけ言ったら、とっとといなくなるからいいでしょッ?』
『ふむ。わざわざ救世主様が来て下さっても茶の1つも出せんのは心苦しいのじゃが、先ずはその「言いたい事」とやら聞かせてもらおうか』
『今回ここにアタシが来た理由は神奈川国元首からの伝言を預かったからで、その話しの要点だけを伝えるわねッ』
『要点だけとは言わず、国家元首からの伝言なら全部聞いても構わんのじゃが?』
『い、いいでしょッ!要点だけッ!要点だけよッ!』
「あんな長ったらしい全文なんて覚えられるワケないじゃないッ」
『救世主様がワザワザ伝えに来て下さったのだから良いではないか』
『やっぱりその「救世主様」ってのが気になるけどまぁ、いいわッ』
突然の少女の来訪に長老達は動揺していたが、どうやら少女の伝言を聞く方向でまとまると洞穴の中は静かになっていった。
少女は最初に「近くまで来たから寄らせてもらった」と言ったが、そもそもそれは方便のようなモノだ。何故ならばマムは前もって、少女に
それらが相俟って
少女からしたら「
一方で長老達は突如の来訪者の話しについて、心当たりが全く無かった。そればかりか意味深とも言える「要点だけ」発言もあったのだが、素直に聞く事にしたのだった。
少女は以下の内容を「要点」として長老達に伝えていった。
・今回の炎龍ディオルギアの討伐
・ただし静岡国は炎龍ディオルギアの情報を神奈川国が持っていた事を訝しんでいた事から今後、静岡国がこの周辺の調査に乗り出す可能性が無いとは言えない事
・もしもこれから先、
・逆に侵略の恐れがなくても望むのであれば、スグにでも獣人種特別保護協定(Beast race protection agreement)に基づいて移住をさせる用意がある事
・
以上がマムからの伝言として伝えられた「要点」だった。
それは偏に「国と国との争いに、関係の無い種族を巻き込むワケにはいかない。国の利害の為だけに、そこに住まう種族に対して不利益を与えてはいけない」というマムの考えから出された結論と言えるだろう。
『じゃ、今日はその事を伝えに来ただけだから、何かあったら神奈川国の公安まで遠慮無く来てね』
『救世主様、暫しお待ち頂けるじゃろうか?』
『何かしら?今すぐにでも神奈川国に移住したくなったのかしら?』
『その話しは我等だけでは決められん……。じゃが他に救世主様に話しておかねばならん事があるのじゃ』
『他に話しておかねばならん事?深刻そうだけど、何かしら?』
帰ろうとした少女は引き留められた。そして長老達は引き留めた少女に、現状に於いて村を襲っている「窮地」について相談していく。
『へぇ、クリスとダフドが、そんな事になっているとはねぇ。まぁ、あの時はアタシも意識を無くしていたし、急な別れだったってのはあるけど……』
『なんとかして下さい。救世主様』 / 『救世主様、本当にお願い致します』 / 『救世主様ッ』
『だああぁぁぁぁ、もうッ!救世主様救世主様救世主様ってもうッ。アタシは救世主様じゃないッ!』
『いや、貴女様は救世主様じゃよ。酷い事を言った我等の村を救って下さったし、ワザワザ村の為に伝言まで持って来て下さった。これを救世主様と言わなくてなんと言うんじゃ?父娘揃って村の救世主様じゃ!』
『はぁ、もういいわ。勝手に呼んで』
『と、まぁそれじゃ話しを戻すわね。クリスとダフドの件だけど、こうするのはどうかしら?』
ごくりっ
『この際だからクリスには神奈川国に来てもらって、「ハンター」をやらせてみるのはどうかしら?』
『っ!?』
『この村には「掟」があったわよね?だから、もう2度と帰って来れなくなるけど、それでも「ハンター」をしたいってクリスがいうなら、アタシが面倒を見てあげるッ!』
『……』
『だけどそれにはこっちも色々と動かないといけないし、
『クリスが自分で決め、自分の道を歩むというのであれば、その時は頼む。じゃが、それと我等の覚悟とはどう繋がるんじゃ?』
『さっきマムから……いえ、神奈川国家元首からの伝言にあったと思うけど、
『何故じゃ?何故そうなるんじゃ?』
『1つ目は国籍の問題よ』
『現状でクリスが神奈川国に来ればそれは密入国だから、不法入国の罪に問われる事になるの。そうなれば犯罪者にはなれてもハンターにはなれないのよ』
『……』
『2つ目に戸籍の問題』
『ハンターはその国の法の番人とも言える存在なの。そんな法の番人が住所不定戸籍不明じゃダメでしょ?』
『それ故に移住しろと?』
『今すぐに移住ってのは無理があるでしょうから、無理にとは言わないわ。でも、いずれ神奈川国に
『それならば不法入国の罪には問われないし、ハンター試験を受ける条件もパス出来るわッ』
『なるほど』 / 『流石は救世主様だ』 / 『炎龍に焼かれたここよりも肥沃なら構わないのではないか?』
『まぁ、神奈川国がどんな所なのか、
『まだ時間が取れるなら、
『ってなワケでね、もう、クリスが遅かれ早かれここに来る事は分かってたのよ。だから、前もって爺と相談しておいたのッ』
『クリスの事だから、勝手に飛んで敷地内に入って来るだろうし、インターホンも知らないだろうからって段取りしておいて正解だったわ』
ぽかん
『でもね、クリス、さっき言った事は本当よ?今までは
『だからそれだけは、ちゃんと肝に銘じておいてねッ』
『承知した。至らない事は
『で、ところでさっき言っていた「手を出せ」とはなんだったのだ?』
『あぁ、うん、それじゃあ先に書いておいてもらおうかな』
『これよッ。これにサインが欲しかったの!』
『これはッ!』
『残念ながら此の身には読めないのだが?』
『やっぱりそうなるわよね。はぁ』
『じゃあそれならば、出掛けるわよ。用意して、クリス!』
少女はクリスにタネ明かしをした後で出掛ける事にしていた。然しながらネタバラシに至るまで喋りっぱなしだった少女は、爺が持って来たカモミールティーに少しだけ口を付けると立ち上がりクリスを急かしていった。
『一体どこに出掛けるのだ?』
『まぁ、いいからいいからッ』
クリスは突然「出掛ける」と言われた事であたふたせずにはいられなかったが、少女の後に付いていく一択しか選択肢は無かったのだった。
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