第48話 Rumbling Executioner Ⅳ

 爺はマムとの2回目の通話の後でシソーラスの回収に向かった。シソーラスが置いてある場所までは悪路であり、中々に困難な道程みちのりではあったが、セブンティーンを無理やり走らせなんとかシソーラスの元に辿り着かす事が出来た。

 拠ってシソーラスはセブンティーンのトランク内に収納されていった。


 シソーラスをトランクに納めた後で、爺が村まで無事に戻った頃になると太陽は既に沈む直前のマジックアワーを魅せていた。



 一仕事終えた爺が村に着くと龍人族ドラゴニア達は炎龍ディオルギア討伐を祝して宴の準備をしていた。当然のように龍人族ドラゴニア達は、少女が目覚めるまで村をと考えていたし、助勢に来た爺も残ると考えていたのだ。

 更に言えば龍人族ドラゴニアの言葉を話す爺についても色々と聞き出そうとすら考えていた。然しながら爺は「お申し出は大変有り難いのですが、お嬢様とお屋敷が心配なので辞退させて頂きます」とだけ一方的に言い残すと、早々に村を後にしていったのである。



 ダフドを始めとしてクリス達龍人族ドラゴニア一同は、村の救世主たる少女に対して、別れも感謝も伝える事が出来ない急な幕引きに、無い気持ちで一杯になっていった。



 爺が意識の無い少女を連れて屋敷に戻って来た時には既に夜になっていた。更には爺が屋敷に到着すると、サラとレミは屋敷の玄関先で2人を出迎えてくれていた。



「2人はお嬢様のお着替えを頼みます。取り外した装備は当方の所に後で持って来て下さい。お嬢様のお着替えが終わりましたら、お嬢様をそのままベッドに寝かせてあげて下さいね」

「もしも2人掛かりで着替えさせたお嬢様をベッドまで運べなければ手伝いますので言って下さい。2人とも分かりましたか?」


「かしこまりました。執事長」 / 「分かったわ、お爺」


 流石に玄関からサラとレミの2人で少女を部屋まで運ぶのは当然難しい。拠って部屋までは爺が少女を抱きかかえて連れていき、その途中で仕事の指示を出していた。



 暫くすると2人は仕事の完了報告と共に、少女の装備を爺の元へと持って来た。こうして爺は2人から受け取った少女の装備の点検を始めていく。

 一通りの点検を終え修理出来るところは修理した後で、爺は一振りの刀へと視線を移していった。



「おや?力を貸すのはと言っていた気がしましたが……」

のヤツめ。どういった腹積もりでしょうかね?まぁ、直接話してみる事にしましょうか」

「もしも良からぬ事を考えているようでしたら、お説教が必要ですからね」




「お嬢様が目覚めたのは、炎龍を討伐したあの日から3日後で御座います。龍人族ドラゴニアの村で丸1日あまり。この屋敷に帰って来てからは丸々2日間眠っておいででした」


「ねぇアタシ、どうしちゃったのかな?今回の炎龍討伐戦で2回目なの。よく分かんない力で敵を倒しちゃうヤツ。爺は分かるかしら?」


「当方には分かり兼ねます。お応え出来れば良かったのですが、申し訳ありません。ところで、2回目とは?」


「前回は魔犬種の王ガルムロードの時なの。その時は全て終わった後に直ぐに意識は戻ったんだけど……」

「今回は話しを聞く限りだと3日も意識が無かったんでしょう?アタシ一体何者なの?何でこんな変な力があるの?本来ならアタシ、死んでるんだよ?」

「やっぱりリビングデッド生ける屍なのかなぁ?聖水とかかけたら苦しみながら死んじゃうのかしら?」


「それはまたご冗談を」


魔犬種の王ガルムロードの時も、今回の炎龍の時だって、アタシ、お腹に風穴開けられて、本当ならもうこの世にいないハズなのよ?それなのに、なんでアタシは生きていられるの?」


 少女はどうしようもなく不安だった。

 少女は心の中が爆発しそうだった。

 少女は自分が自分ではなくなってしまいそうで、心がはち切れそうだった。


 感情が溢れずにはいられなかった。だからこそ溢れ出た感情は少女の頬を濡らしていった。


 既に少女の両親は既に他界しており、自分の身体に何か秘密があったとしても聞く事は絶対に出来無い。両親の墓こそ無いが、それこそ両親揃って少女の秘密を墓場まで持って行ってしまったのだから。



「もしも、お嬢様がお嬢様で無くなってしまうのでしたら、その時は当方もお嬢様に全力でお供致しましょう」


「爺……」


「お嬢様がお嬢様のままでいらっしゃるのでしたら、当方はどこにも行かずこのお屋敷でお帰りをお待ちしております」


「爺、アタシの事を口説いてるの?」

「でもごめんね、爺。アタシは爺のお嫁さんにはなれないの」


「お嬢様、ご冗談が言えるのでしたらもう大丈夫でございますね?」

「ご冗談が言えるくらい元気なのでしたら、お仕事が残って御座いますから片付けた方が宜しいかと」


 感情がたかぶり心がすさんでいく少女の頭を、爺は優しく撫でていった。少女は爺から紡がれた言の葉で疑問は解けなかったが、不安は少しばかり拭えていた。

 ただし不安は残っていながらも、少しばかり気恥ずかしい気持ちにすり替わってしまった為に、はぐらかしたに過ぎない。



 こうして少しばかり気が楽になった少女は、爺をからかった挙句に広間から退散していった。



「友よ、当方はいつになったら打ち明ければ良いのであろうな?」

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