第44話 Benevolence Destroyer Ⅲ
「えっとぉ……ここは、どこかしら?」
「前にもどっかで見た記憶がないワケではないんだけど、まったく分からないわね」
「前はどうやって、ここから抜け出したんだっけ?よく思い出せないなぁ。でもそう言えば、アタシは何でここにいるんだろう?」
少女は真っ黒い世界に漂いながら自問自答を繰り返していた。その真っ黒い世界は自分と世界との境界を忘れさせてくれる。だからこそ恐怖心はないし不安もない。
何故なら世界と1つになってる気がするからだ。
あるとすれば小さな子供の「なぜなぜ期」のように「何故?」という疑問だけが次々と湧き上がってくる事だけだった。
「あッ……思い出した!アタシは炎龍ディオルギアと闘ってたんだッ!」
「って……そうだ、爪に引き裂かれたんだったぁ。はぁ」
「流石に前回……そうだ、前回は
「でも前回に続き今回もこんな結果になっちゃって……」
「やっぱりアタシ、
「これで目が覚めてまた身体が元通りだったら本当に……はぁ。ヤだなぁ……」
「アタシは人間でいたかったわよ。はぁ……」
少女は黒い世界に
APFSDSの命中は炎龍ディオルギアの身体に大きな爪痕を残していった。その結果、炎龍ディオルギアは首の付け根辺りからは肉片が大きく
今となっては刀の拘束を解こうと
「痛い」 / 「憎い」
「痛い痛い」 / 「憎い憎い」
「痛い痛い痛い」 / 「憎い憎い憎い」
「痛い憎い痛い憎い痛い憎い痛い憎い痛い憎い痛い憎い痛い痛い憎い痛い痛い痛い憎い憎い憎い憎い憎い痛い痛い痛い痛い痛い憎い憎い憎いッ」
しかし突如として炎龍ディオルギアに異変が
身体の中に残っていた砲弾の欠片は、筋肉に拠って押し出されるようにジワジワと次々に体外へと排出されていった。
更には自らを刺し
ぎりッ
「なん……だと。何ということですかッ!
「こうなっては急いで
「シソーラス、急ぎなさい!APFSDS再装填」
「APFSDS再装填完了シマシタ」
「照準セットノ指示ヲ下サイ。ソレトモ先程ト同ジ場所ニ向ケテ発射シマスカ?」
「手動照準デアレバ発射ハイツデモ出来マス」
爺の口からは激しい歯ぎしり音が響いていた。そして口の端からは血が滴っている。
しかし焦る事なく爺はオートで照準を合わせずに、自分から照準器を覗き込んでいった。
すると信じられ無い事に炎龍ディオルギアを拘束している「
爺はその目に「ぱきいぃぃぃぃぃん」という乾いた音と共に「
何故ならば信じられないモノを見た気がしていたからであり、それは信じたくなどない事実だったからだ。
「シソーラス!先程の場所に照準を再セットしなさい!」
「照準セット、完了シマシタ」
「オート発射、スタンバイ完了」
「イツデモ発射可能デス。御指示ヲ」
「撃ちなさいシソーラス!」
「了解致シマシタ」
「対ショック性能最大」
「反動ニ御注意下サイ」
ドッッッッゴォォン
シソーラスから響く3度目の轟音。だが2発目のAPFSDSは、着弾する事なく炎龍ディオルギアのブレスに因って掻き消されていった。
本来であればAPFSDSは射出されても1秒も掛からず、炎龍ディオルギアに到達する。だが炎龍ディオルギアはまるでオート迎撃でもするかのようにAPFSDSに向かって最大出力の
因って砲弾は綺麗サッパリと消滅した。それは文字通りの消滅であり、完全に融解したことになる。更にその
しかし軍装の仕様に因って地面に縫い付けられているシソーラスは、動くに動けないのだった。
従って炎龍ディオルギアの放った
「絶対防御」と謳っていても炎龍の
「手も足も身体の何処も動かない。腕の感覚も、脚の感覚も無い」
「前回はよく分かんないまま助かったけど、今回は多分……ダメよね?」
「それこそ本当に
「そんな事を言って、フラグを立てて……。目覚めたらベッドの上にちゃんといないかな?」
「あぁでもッ!
「あっ、でもなんだか凄く眠い」
「アタシ、やっぱり本当に……死んじゃうの……かな?」
「最後にもう一度だけ……会いたかったな。キ……ク」
爺は超高温の炎で融かされていくシソーラスに対して、何もする事が出来なかった。シソーラスもこの状況下では、搭乗者の緊急脱出を行う事の無意味さを理解していた。
拠って少しでも長く搭乗者の延命をする為の措置を施していたが、雀の涙程度の頑張りでしかなかった。
それはもう
シソーラスを融解させていた炎龍ディオルギアのブレスが止んだのだった。
-・-・-・-・-・-・-
炎龍ディオルギアは、何故再三に渡り死の淵から
一方で自身の自由を奪っている目障りな刀が憎かった。どうしようもない程に恨めしかった。
だから拘束している刀を引っ掻いてやった。
憎い刀を掻き
しかしながら元通りになった爪の強度は、先程より格段に増していた……。
その行為を炎龍ディオルギアは幾度となく繰り返していった。それ故に結果として爪は、刀の持つ「
炎龍ディオルギアの爪は、刀の「
炎龍ディオルギアは「
だからその
しかし炎龍ディオルギアの怒りは、恨みは、憎しみは、
この身を焦がす程の憎しみを炎に変えて、全てのモノ達に
生物としての本能すら捨て去り、負の感情に支配された炎龍ディオルギアは
ドんッ / ガチッ
ドォォォン
それは突然の事で、炎龍ディオルギアに対して衝撃は下からやって来た。自身の
その結果
結果として自身の口より勢い良く放出されていた
炎龍ディオルギアは当然の事ながらワケが分からなかった。何が起きたのかサッパリ分からなかった。
そして
炎龍ディオルギアが見たその光は、
頭のてっぺんから尻尾の先に至るまでを、一瞬にして真っ2つに切り離した
その結果、光玉は2つに割れ誰にも知られる事なく光の余韻を残して霧散していった。
グ……グルォ
ずりゅっ
炎龍ディオルギアは断末魔の叫びを盛大に上げる事も出来ずに、微かな咆哮のみを残してその身体は左右へと泣き別れていった。
どおぉぉぉンッ
炎龍ディオルギアが完全に大地に崩れ落ちると、辺りは急速に静寂に拠って支配されていったのである。
赤く爛れた大地も燃えている草木も、今はまだ赤々と空を照らしている。しかし炎龍という火種を失った事で闇は、その赤い光すらも取り込もうと様子を窺っていたのだった。
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